夏本番!クジラの海で冒険しようよ!
こんにちは。
いつもお越しくださり、ありがとうございます。
いよいよ梅雨も明け、本格的な暑さがやってきましたねー。
2021年の海の日は7月22日。
というわけで本日は、古き良きアメリカの薫りただよう上質な海の絵本をご紹介します。
『沖釣り漁師のバート・ダウじいさん』(ロバート・マックロスキー/作 わたなべしげお/訳 童話館出版)
作者のロバート・マックロスキーは1914年アメリカオハイオ州の生まれ。
児童文学作家ルース・ソーヤーの娘である妻と二人の娘と共にメイン州にある小島に住んで、そこでの暮らしを、『すばらしいとき』(わたなべしげお/訳 福音館書店)『海べのあさ』(石井桃子/訳 岩波書店)という優れた絵本で著し、コルデコット賞を受賞。
今日ご紹介する『バート・ダウじいさん』も海の恵みを生活の糧としてきた漁師の老人が主人公です。
この絵本、とにかく色彩豊かで、登場人物の描写が細やかで…絵がすごくいいんです。
主人公のバート・ダウじいさん。推定80歳(これはわたしの主観)。
若い頃から漁師をしていて、しっかり者の妹(こちらも老婦人)リーラと暮らしています。バート・ダウじいさんは二艘の釣り舟を持っているんですが、一艘はお役御免になってゼラニウムやスイトピーなんかを植えた花壇になってる。
でも一方の舟「潮まかせ号」はヨタヨタしてはいますが現役です。
おじいさんは、潮まかせ号の修理をしながら、ご近所さんや夏に島を訪れる別荘族の雑用なんかをやっています。特にペンキ塗りが得意で、余ったペンキを潮まかせ号の修繕に使う。
〈あのピンクの外板は、ジニー・プーアさんとこの食器部屋の色だし…みどりのは、おいしゃのウォルトン先生の待合室の床と戸の色だ。黄褐色は、ハスケル船長さんの家のポーチとかざりの色。」というわけだった。〉
おじいさんには仲良しのカモメがいて、この相棒と一緒に時々海に出る。
潮まかせ号が海に出ると、古いエンジンの音が町中に聞こえるから、みんなが海を見る。
〈バート・ダウじいさんが 潮まかせで海にでるときは、町じゅうの人が気づく。…それから、きまぐれエンジンをかける音がきこえる。チャカチャカ バン!チャカチャカ バン!
しばらくすると バートじいさんが がっしりした手でかじ棒をにぎり、おしゃべりカモメをしたがえて 入り江をぬけだし、チャカチャカ バン チャカチャカ バンと 湾の沖へむかうのがみえる。〉
ひさしぶりの沖釣り。
バートじいさんが手慣れた手つきで貝のむきみのエサをつけた釣り綱を海におろす。
すると引っかかったのは、なんとクジラのしっぽ。
しっぽの先に針の穴をあけてしまったのをすまなくおもったバートじいさんは、持っていた「はっか入りキャンディーのつつみ紙みたいな」絆創膏で手当てをしてやる。
クジラの手当てに手間取っているうちに空模様があやしくなり、波が高くなってくる。
経験から家に帰れないと悟ったおじいさんは、嵐がやむまでクジラの腹の中に避難させてもらうことを思いつく。
潮まかせ号のエンジンをフルスロットルにしてクジラの口に突っ込んでいくバートじいさんの雄姿は、もうおじいさんのそれじゃない。
嵐が止んだそのあと、おじいさんとカモメはどうやってクジラの腹から抜け出したのか。
クジラの大群があらわれて、おじいさんにカラフルなばんそうこうをねだる描写も圧巻です。
〈バートじいさんは おしゃべりカモメに おしえてやった。「そら みろよ。くじらどもは おとなしく一列にならんで、ばんどうこうを しっぽのさきに まいてもらうのを まっているじゃないか。」〉
陸の上ではおじいさんでも、海へ出れば経験豊富なレジェンド漁師のバートさん。
カッコいいんです。
息子たちに読み聞かせをしていた頃には感じなかったバート・ダウじいさんのほんとうのカッコよさが、今のわたしならばよくわかる。
トシをとるって、失っていくものばかりだと思ってしまいがちなんですが…実は、得ているものの方が大きいのかもしれません。
視野の広さとか、経験とか、包容力とか、優しさとか…まだまだたくさん…ね。
バート・ダウじいさんの冒険を読んで、わたしもそんなトシの取り方をしたいと改めて感じました。
最初にマックロスキー作品を息子たちに読み聞かせたのは『サリーのこけももつみ』(石井桃子/訳 岩波書店)だったのですが、5~6歳くらいでハマってしまったのが『ゆかいなホーマーくん』(石井桃子/訳 岩波少年文庫)でした。
ホーマーくんのやることなすこと、男の子にはあるあるで…息子たちは聞きながら笑い転げていました。
その無邪気で明るい笑い声は、25年経った今も耳に残ってます。
マックロスキー作品をすべて読むと、このバート・ダウじいさんはマックロスキーさんその人のような気がしてきます。
少年のような老人。
少女のような老婆。
なんて素敵だ!
おとなにもこどもにも、元気と勇気と笑いをくれる、ロバート・マックロスキー。
没後20年近く経っても「アメリカで五指に入る絵本作家」と評されるゆえんでしょう。