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極上のプライドを持ったおとうさん。

もうすぐ父の日ですね。
今日は、私の大好きな〈お父さん絵本〉の中からこちらをご紹介したいとま思います。

「ねずみのとうさんアナトール」 
イブ・タイタス/文 ポール・ガルトン/絵   晴海耕平/訳 童話館  

 生きてゆく上で何が一番大切なことなの?…なんて、目を輝かせてやおら質問する大人はあまりいないかもしれませんが、子どもが突然そんなことを言い出して周囲をびっくりさせることがあります。
小学校で読み聞かせをしていた頃。本を読んだあと、子どもたちに質問されたことがありました。

 私も小学生の頃、「どう生きてゆけばよいか」までは考えなかったにせよ、「大切なことは何か」…ってことぐらいは考えた時期がありました。

 家業でいつも多忙だった父に、工場へ行っていって訊いたことがあります。父は機械の大きな音がする中で、ちょっとだけ考えるそぶりを見せた後、「自分を大事にすること!」って答えました。
そう…思い返せば父は、その後もずっと「自分を大切にしなさい」と言い続けていたんです。
それに対しては、ものすごーい一貫性がありました。

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今日ご紹介する絵本の主人公である、アナトールという名のねずみのとうさんも家族を支え導くために奮闘しています。 

まずは、冒頭の文章がすばらしい。 この文章を初めに置くことによって、アナトールの生きものとしての偉大さを、読者に印象づける効果を上げていると言えます。

 「フランスのどこをさがしても、アナトールほど、しあわせで みちたりた ねずみは いませんでした。」  
アナト-ルが「しあわせ」で「みちたりて」いるのは、飼いねずみだからでも、食料品の倉庫に住んでいるからでもないのです。
愛するパートナーと子どもたちと、そして仕事を持ち、なにより生きものとしての誇りを持っているからなのです。
 アナトールのようなねずみとうさんの仕事は、夜になると人間界へ出かけていって、ねずみ家族のために台所や店の片隅から食べ物をしっけいしてくることです。  

 ある晩、アナトールと友人のガストンが、ある家の台所で食べ物を物色していると、人間の声が聞こえてきました。

「まったく、ねずみはいやらしくて、きたない動物だ。生ゴミはかきまわす、テーブルの上の料理にも手をつける、やつらはフランスの恥だ。生まれつきの悪なのさ」って。
 アナトールはそれまで、食べ物をしっけいすることは、家族のために自分が与えられた「仕事」だと思ってきたのに、実はそれが人間に迷惑をかけ、みんなから軽蔑され嫌わる原因になっていたのだと知り、大きなショックを受けます。
 友人のガストンに胸の内を話しても「ねずみはねずみ、人間は人間、オレたちだって、家族を食べさせなくちゃいけないんだぜ。」と一笑に付されてしまう。  

 アナトールには誇りがありました。その生きものとしての誇りが、他者に軽蔑され、嫌われることを許さなかったのです。
 アナトールは人間から感謝されつつ、正当な報酬を受け取る方法を考えぬき、そして思いつくのです(win‐winの関係性を構築したかったアナトール、立派だね~)。
つまりは、アナトールは他者や社会に貢献できる仕事をしたいと願ったのです。
さて、アナトールの「仕事」とはいったいどんな仕事で、その「仕事」は成功したのでしょうか?

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 仕事の部分で譲れないプライドを持っているお父さんって、素敵ですよね(いやいや、もちろんお母さんも!)。
それは、「頑固」とか「独りよがり」ではなく、スマートなプライド(誇り)。

 「人に迷惑をかけて平気でいること」も「人の痛みに無関心でいること」も、「人を妬んだり、恨んだりすること」も「私利私欲に走ってしまうこと」も、果ては「子供の養育を放棄してしまうこと」だって…もうすべては「誇り」を失った果ての有りようではないか…と最近の出来事をみていて思うのは私だけでしょうか・・・。  
 
 「誇りをもって生きること」は、実はとても辛抱のいること。
自分の知恵を最大限に使って、やっと手に入れることが出来るものかもしれない…って、アナトールの奮闘ぶりを見ていて感じました。

子どもたちは父親の背中をみて育つ…なんて言葉が古くからありますが、今も、ちっとも古びてなんかいない。

誇りを持って生きることを、子どもたちは父親の背中を見ながら目指していく…。
大切な存在として生まれ、育まれ、やがて誇りの存在を自分の中に見つける。そんなふうに子どもを導けたらいいなぁ…と思います。  

 「人生は捨てたモノではありません、誇りを持って生きてゆけば、キミの未来には輝くような幸せがきっと待っている」って、大人として(自信満々に)言ってあげられる世の中を実現しなければなぁ…。


 アナトールの物語を子どもに手渡すとき、わたしはいつも、そんな気持ちを抱いてしまうのです。
父の日に…ご家族で、ぜひどうぞ。



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