いのちと死について、子どもとかたり合う秋。
みなさん、こんにちは。
今日もお越しくださいまして、ありがとうございます。
突然ですが…わたし、ミイラが好きで…。
えっ?変人?? いえいえ、結構いらっしゃると思うんですけどねー。
あえて「わたし、ミイラがすきなもんで~」なんてアピールする機会がないから黙っているだけで(笑)。
というのも、以前、国立科学博物館で開催された「古代エジプト展」に行った時、ミイラの前にたくさんの人が立ち止まっていて動かないんですよ。
そのとき、見たかったミイラをよく見ることが出来なかったので…この秋から開催される「大英博物館ミイラ展 古代エジプト6つの物語」は、絶対に行こう!と今から心に決めています。ワクワク…
さて、そんな前振りをお読みいただいたところで。
今日ご紹介する絵本はズバリ…『エジプトのミイラ』(アリキ/作 神鳥統夫/訳 佑学社)です。
この絵本の作者アリキ・ブランデンバーグは、ギリシア人を両親に持つアメリカ生まれの絵本作家で、主に科学・知識系の絵本を著しています。
あまり聞いたことがない作家だとお思いの方も少なくないと思いますが、アリキの描く科学絵本は絶品!とわたしは思っておりまして。
それは、子どもたちと一緒に読むとすぐにわかりますよ。
(子どもの)目がいきいきしてきて、おしゃべりが多くなる。
知ってることと知らないことがバランスよく挿入されていて、子どもの自尊心と好奇心を同時に満たすような絵本となっております('◇')ゞ
対象年齢は問わず。化石、恐竜、ミイラ、古代、中世、進化などに興味のある子ならば就学前でもイケると思います。もちろん!大人が読んでも面白い。
知らなかったこともたくさん登場します。
そもそも作者であるアリキのモチベーションが素晴らしいんです。彼女の言葉から引いてみます。
〈科学の世界には自分のわからないことがたくさんあり、それを私自身も学びながら子どもたちにわかるよう本を創り上げたとき、自分の中にきっと大きな実りがある。古代の精神世界を子どもにどれだけ伝えられるかに挑戦してみたかった〉
ミイラの絵本…。この絵本が世に出た1970年代では、確かに新たな挑戦だったでしょう。
『エジプトのミイラ』の内容は至極シンプル。
今から5000年以上前に起こった古代エジプト文明。 その死生観と精神世界につながるミイラとピラミッド(王墓)のことを子どもにわかりやすく伝えてくれます。
〈古代エジプト人は、人が死んでも たましいは いつまでも 生きていると、しんじていました。人が死ぬと、あたらしいいのちが はじまると、かんがえていたのです。死んだ人は、この世で 生きていたときと おなじように、はかのなかで 生きつづける。そして、ときどき、死の国へいって、死の神さまたちと いっしょに くらしたりすると かんがえました。〉
最初のページにはこの言葉と、死者の国の王であるオシリスの絵があります。
わたしは子どもたちとこの絵本を読む前は、ミイラになれるのは位の高い王族だけで、墓はその権力を誇示するために造られたのだと思っていました。
この絵本では、ミイラが作られるようになった経緯をまず説明しています。
〈人には みな、バーという たましいと、もうひとつ、カーといって、目には みえないけれど、その人と おなじすがたのたましいが あると かんがえられていました。〉
バーとカーという、ふたつの魂は、エジプト人すべての人にあるもので、死者になるとバーは引き続き、生きている人たちとの付き合いを続けてゆきます。カーは死者の国との間を行き来します。
どちらの魂も、戻ってくる場所が亡骸。
魂の家である亡骸を永遠に保てるようにと、ミイラにしたのです。
その思想が始まった頃は、乾燥した砂漠に死者をうずくまった姿勢で埋めました。生まれ変わった魂がすぐに食べられるように、食物をいれた壺も一緒に埋めていたのです。
砂漠ですから、自然に亡骸は乾き、いずれは化石のようになりました。
時が流れ、次第に人々は死者をもっと丁寧に葬りたいと考えるようになり、試行錯誤した結果、生まれたのがミイラという技法だったのです。
絵本を見ていただくとわかるのですが…それはそれは、気の遠くなるような作業です。
当時の人たちが亡骸という魂の家を遺すために、どれほどの苦労と研究を重ねたか。
それは5000年の時を経ても、ミイラが形をとどめていることが証明しているでしょう。
ミイラづくりの詳細な方法も、子供向けの絵本だからといって端折ったりなどしてはおりませんよー。
「頭に傷をつけず、どうやって脳みそを取り除くの?」とか「内臓の代わりにいったい何を詰めたの?」などという、子どもたちの純な疑問にもシンプルに応えてくれています。
もう、カッコイイくらい。 あっさり、きっぱり。
医学的な死という共通概念がなかった5000年前は、今より死に対する神秘性は勝っていたでしょうし、同時に恐怖心も大きかったに違いありません。
死を崇高で安楽なものとして受け入れるために、恵みあふれる死後の世界を創造した完成系が、ミイラやピラミッドなのだと感じました。
〈はかは、ただのあなではありません。ミイラや、バーや、カーのすむいえだから、いつまでも ながもちしなければなりません。(中略)
こうして、ミイラは、えいえんの やすらぎのばに おちつきました。これから 死んだあとの あたらしいいのち、えいえんのいのちが はじまるのです。〉
ミイラは古代エジプトだけのものではなく、インカ帝国時代にも作られました。日本のミイラの代表といえば中尊寺に眠る藤原氏四代のミイラでしょう。
国や時代が離れていようとも、ミイラの目的には共通するものがあるように思えます。
この絵本の最後の言葉。
〈えいえんのいのち。あたらしい いのちのはじまり〉。
いのちの循環を目に見える形にしたかった古代エジプト人も、今を生きるわたしたちも、きっと想いは同じ。
死者と再び会いたい、自らが滅しても再び愛する人たちと集いたい…。
純粋な人間の祈りがミイラを作らせた。
絵本の読後感を胸に、今年こそ、「ミイラ展」に行ってくるぞ!と決意を新たにしたわたしでした(笑)💦
尚、今回ご紹介したアリキの絵本のほとんどは、1994年に業務停止した佑学社刊行のもので、残念ながら…現在絶版です。
あぁ…ほんと。よい絵本が手に入らない現状。
どうにかならないかなぁ~。