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人材業界の未来シナリオ

はじめに

転職支援サービスを運営する黒田真之氏と株式会社ミライフという会社の佐藤雄佑氏のとの共著。

人材業界が変わらなくてはいけない時がまさに今来ています。景気がいい時代であれば、今までのやり方の延長線上であっても、がむしゃらに行動量を増やすか、力技で人件費当たりの生産量を高めるかに振り切れば事業は伸びるかもしれませんが、次の景気後退のタイミングから、一気に変化のタイミングが訪れ、人材ビジネスの戦国時代が始まります。

人材業界で仕事をしているまともな人間であれば誰もが感じている部分だと思います。

単なる中抜き業者として価値提供を考えずに楽してきた人材サービス会社はどんどん淘汰されていっています。

12年間リクルートで人材ビジネスに携わっていた佐藤氏が「業界全体の事を全然知らない」とい事に気づき、早稲田大学のビジネススクールで「人材業界の未来のシナリオ」をテーマにした論文を作成しようと思ったという部分にとても共感できました。

概要と構成

"人材ビジネス"これまでの100年を分析し、業界の未来を予測する一冊。
いまや一大産業となった人材業界。ですが、かつて高度成長期には終身雇用と年功序列が一気に広がったことで、「新卒で入社したら定年まで勤め上げるのが当たり前。途中でケツを割って逃げ出すのは負け犬だ」という価値観が一般化し、転職=中途採用の市場そのものをうしろめたいものにしていた側面もありました。
当初はびくともしなかったその差別的な空気は、時代を追うごとに変化し、転職は当たり前どころか、適正なキャリア構築のための不可欠な手段となりました。
今では、転職を考える方々から、「転職時に手段が多すぎ、情報が多すぎて選べない」「複数の転職エージェントに相談したが、アドバイス内容が人によって違いすぎてどの意見を信用すればいいのか」といった声が年々増加するような状況になっています。
また、転職サイトや人材紹介会社などで働く方からは、「転職サイトは、クローリングにとってかわられるのか?」「人材紹介ビジネスは、AI によって崩壊するのか?」「RPO はどこまで進化するのか?」といった、中途採用ビジネスの環境激変による将来不安の声が聞かれるようになっています。
本書では、2020年時点で日本の最先端を走っている、HR系、特にリクルーティング系のサービスにもスポットを当て、これからの人材業界の変化の予測にも挑戦しています。「人材業界は今後どうなるのか? どうなるべきなのか?」を俯瞰して考察している、今までなかった一冊です。
採用担当者、転職サイトや人材紹介会社で働く方、人材業界で働きたい方だけでなく、経営者や、産業の変化の一つとして、客観的にこの業界に興味を持つ方々に読んでほしい一冊です。

※Amazon商品ページより抜粋

序章 採用支援ビジネスを取り巻く全体像

①職業選択の広がりと採用ビジネスの100年

②求人広告と人材紹介 2つの人材ビジネスの誕生

③リクルーティングビジネスにおけるビジネスモデル変遷

④リクルーティングビジネスの新潮流

⑤人材業界のディスラプター

⑥人事採用部門は変化にどう対応すべきなのか

⑦リクルーティングビジネスの未来シナリオ

参考になるポイント

■江戸時代から戦後、高度成長期から現代に至るまでの採用ビジネスの歴史について

求人メディアが存在しなかった江戸時代では、基本的に縁故採用が中心だった。
そのため紹介者がいない人はなかなか職にありつくことができなかった。
「士農工商」という身分制度の中で「奉公人」という働き方が一般的であった。

戦時中からポツダム宣言により戦争終結されるまでは、学生たちは職業選択の自由を奪われていた。
敗戦から、日本経済はどん底の状況であったが、朝鮮戦争の勃発が日本が米軍の補給基地になったことで経済が息を吹き返し、経済復興を加速させた。

高度経済成長に突入し、それまで労働環境が整備されておらず劣悪な労働環境にあった人々が大量に転職者となり、三行広告を中心とした求人広告産業が大きく育っていった。

■リクルーティングビジネスの業界全体像

リクルーティングビジネスにおける2大ビジネスモデルは「ネット求人広告」と「人材紹介」であり、2017年度の市場規模はネット求人広告が1020億円、人材紹介が2570億円。
ネット転職情報サービスは直近6年で約2.1倍、人材紹介は約1.9倍と大きな成長を見せている。

ネット求人広告の主なビジネスモデルとして「総合型/セグメント特化型」「成功報酬型」「求職者DBスカウト」「エージェント向け成功報酬型求職者DBスカウト」などが存在する。

人材紹介のビジネスモデルには、「総合型」「業界・職種特化型」「レイヤー特化型」などに分かれ、企業、求職者の対象ターゲットが異なるが、ビジネスモデルとしては同じ。

■ソーシャルリクルーティング

採用後の失敗を避けるためにも、採用費が安ければ誰でも採用しようとはならないなど、人材業界特有の仕組みにより、低価格戦略に出る企業が無いという「リクルーティングビジネスの空白地帯」が存在した。

そんな空白地帯に飛び込んできたビジネスモデルが「ソーシャルリクルーティング」。
主なビジネスモデルとして、Wantedlyを代表とする「SNS拡散型求人PRサイト」、もう一つはLinkedInを代表とする「ビジネスSNS」というモデル。
「OpenWork」や「NewsPicks」が展開しているビジネスにも注目である。

従来のリクルーティングビジネスはBtoBのビジネスで、お金を払ってくれる企業主体で発信されるコンテンツとなっていたため、いいことばかり書いてあるけど本当のことがわからないという求職者側のストレスが多かったが、ソーシャルリクルーティングのビジネスモデルは徹底的に求職者目線でサービスを構築している点などが、業界のゲームチェンジャーとしての可能性を秘めたチャレンジとなっている。

■大手人材サービスの次世代戦略

リクルーティングビジネスの大手3社として「リクルート」「パーソル」「エン・ジャパン」を事例に紹介されている。

リクルートは求職者への接点で強力なパワーを持つ「indeed」と、アメリカ・カリフォルニア初の求人企業レビューサイト「Glassdoor」という2つのサービスのシナジーを生み出していくことで「2020年にHRビジネスで世界No.1」という目標に邁進。

パーソルは2015年にリリースされた求人広告サイトの「ミイダス」が、5万社を超える企業利用を集めるなど、確実に新しいマッチングモデルを構築し始めている状況であり、ハイクラス人材のキャリア戦略プラットフォーム「iX」のサービスを開始するなど、既存のマッチングとは異なるセグメントや手法開発意欲的に取り組みを続けている。

エン・ジャパンは企業のいいところも悪いところもオープンにすることが不可欠という考えから生まれた「エン ライトハウス(旧:カイシャの評判)」や自社で採用活動を発信していくための採用支援ツール「engage(エンゲージ)」を展開。その他にもなどテクノロジーを最大限活用したサービスにチャレンジしている。

大手3社の動向は、いずれも求人企業サイドとの接点強化をめざした戦略展開となっており、どのようなアプローチでの接点獲得が市場シェアを握る鍵となるのか、その動向が注目される。

中でもindeedというサービスはソーシャルリクルーティングと同様の低価格帯に位置する「アグリゲーション型求人検索エンジン」として、人材業界のディスラプター(破壊者)としてのポテンシャルを持っている。

indeedは、「Web上に掲載されているほぼすべての求人情報を集め、フィットした求人をワンストップで見ることができる」「世界トップレベルのSEO技術により、Googleやyahoo等の検索エンジンでほぼ1ページ目に上位表示される」、「料金は案件ベースではなく、クリック課金である」という強力な3つの特徴があり、「転職顕在層」に対し、「楽に」「安く」採用できるチャネルであり、従来のサービスが無効化されるほどの可能性がある。

■採用手法の変化に人事が対応していくべきこと

採用手法の進化と多様化は、限られたリソースの中で採用活動を行う人事採用部門にとって必ずしもいいことばかりではない。
新たな方法に取り組んでも振り返りをせずにやりっぱなしになってしまったり、採用担当の人事異動などで学びが継承されないケースも散見される

RPOなどの採用代行関連サービスの活用も広がっているが、採用関連コストの上昇に直結するものである。

あらゆる企業と職種を網羅した万能な採用手法は今の所存在しないので、トライ&エラーやABテストを繰り返しながら、自社に合った中途採用の方法論を探求し、磨き上げていく体制づくりが重要である。


さいごに

本書を読了することで、業界の歴史についてや、今までとこれからについて体系的に捉えられる事ができると思います。

その上で、参入障壁の低い人材紹介業においては競合他社とどのように差別化を図り、求人企業と求職者に対して価値を提供していけるかを実践しながら取り入れていく必要がありますし、求人広告業では人材業界の巨人が展開するサービスを超えるようなサービスを作り出すのは極めて困難であると言えるでしょう。

それでも、今後ますます雇用の流動性や新たな働き方が求められる社会において、リクルーティングビジネスの最大のニーズである「自社にとって優秀な人材を」「手間なく」「安く」提供するという付加価値を追求していきたいと思います。

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