音のある風景
寒さが少し緩んだ先日、那智勝浦町を訪れた。生マグロの水揚げで日本一を誇る漁港は、今がキハダマグロの最盛期。活気のある男たちの声が街に溶け込んでいる
スマホを取り出し、細い路地裏に入った。懐かしい丸型の郵便ポスト、マグロをモチーフにした店看板、飾れている瓶製の「浮き球」など、趣ある風景ばかりだ。次々と訪れるシャッターチャンスのせいなのか、陽気な天気のおかげか、足取りは軽い。
港の外れには船の修理工場があった。眺めていると「カンカンカン」と鉄を打つ音がする。近くでは電気屋さんが店の前に壊れたエアコンを放り投げていた。自転車に乗った夫婦がブレーキ音を鳴らしながらカーブを曲がっていく
遠くから届く汽笛、目の前に打ち寄せる波の音。耳をすませば、無数の音が街にはあった。もし旅を写真で振り返るのであれば、静寂な部屋で音を思い起こしたい。好きな音楽を聞きながら指でスライドさせる野暮なことはせずに。
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