【遂に署名運動が始まったヴァレンティノの炎上】〜問われる老舗メゾンの品格〜
3月末、世界を代表するイタリアのメゾン、ヴァレンティノが日本で炎上したのは、noteを利用する情報リテラシーの高い方々には記憶に新しいと思います。
発端は「帯(に見える布)を踏みつけた広告」がtwitterを中心に批判が広まったことにありました。その後、バレンティノは謝罪をしたものの、その内容がさらなる顰蹙を買い、ついには帯職人のギルド、西陣織・博多織工業組合から正式な抗議文を送りつけられることに。
しかし、彼らの抗議に20日以上無言スルーを続けていることから、正式な回答をもとめる署名運動にまで発展。日本人のヴァレンティノへ批判がくすぶり続けています。
世界を代表するメゾンであるヴァレンティノの炎上対応は適切な危機管理と言えるのか?彼らは「本当に」日本人を理解しようと努力しリスペクトしているのか?
改めて炎上と対応の流れと日本人の心情を振り返りながら考えたいと思います。
炎上の始まり
事の発端はこのツィートでした。
じわじわと広まり、数日後にはtwitterで「着物の帯」がトレンドに上がりました。
日本の民族衣装の帯(に見える)を土足て踏みつけた事、しかもモデルがファッションアイコンで有名な日本人ということもあり、あらゆる視点から賛否両論侃侃諤諤が始まりましたが、概ねが否定的な意見でした。
止まらない拡散にヴァレンティノは問題となった動画
を削除しました。が、インスタグラムに上がっていた写真のいくつかが、「畳の部屋で靴を履いている」「敷居をあろうことか靴で踏んでいる」など、日本人からしたらありえない非常識なショットだったため、ネットでは追及が止まらず、さらに炎上は広がり続けました。
謝罪文がさらなる炎上へ
批判は大きなうねりとなって行き、ヴァレンティノは3月30日に謝罪文をtwitterに出します。
ところが、これがまた火に油を注ぐ結果に。
日本語版
英語版
その要因は以下の通り。
・WEB上でテキスト検索に引っかからないように対策。画像で謝罪文を公開。
・謝罪文には署名がない。(責任者不在)
・謝罪はツイッターのみ掲載で自社HPに掲載なし。
・謝罪の内容が、英文と日本語とニュアンスが異なった。日本語は「帯ではない」と釈明
・英語謝罪が「日本をリスペクトし製作したものだが、あれはたまたま日本の帯に酷似していた。」という言い方を採用。
・さらに英語版には「日本の文化に敬意を込めて作成」という言葉がなく「日本文化に関連して制作」と表記
騒動が拡散しないような見え見えのWEB対策、責任者不在の謝罪文、そして、「たまたま日本の帯に酷似」という一節が人々の怒りの導線に火をつけました。
というのも、この広告のコンセプトが寺山修司の映画「草迷宮」からインスパイアされたものであることがヴァレンティノのプレスリリースで発表されており、帯がモチーフであることは明白だったからです。
この謝罪に再び批判の声が殺到します。
想像力の欠如だ
英文と日本語の一貫性のなさに厳しいツッコミ
海外からは手厳しい一言も。
あれは帯なのかそうではないのか?
この謝罪を機に、公式ツイッターへ人々からの追求がさらに厳しくなります。
中無地があるのは日本の帯だけでは?
たまたま日本の帯に酷似というなら文化の盗用ですよね?
写真から分析するとやっぱり帯では?
そしてトドメの実家が呉服屋のファッションデザイナーの一言。
ヴァレンティノの主張するように「帯でない布」を使ったとしても、数々の指摘からもわかるように「帯のレプリカ」と捉えられるに十分な精巧な作りであることには間違いありません。
西陣織・博多織工業組合からヴァレンティノ日本支社に抗議文送付
そして、ついに、4月3日、西陣織工業組合と博多工業組合の連名でヴァレンチノジャパンに抗議文が送られます。
抗議文には、
・「日本文化の原点ともいえる帯をハイヒールで踏み歩くなど日本文化を著しく冒涜するもの」と非難。
・ツイッターの釈明も「言い繕い」と一蹴
・「襟を正して文書で反省を示すべきではないか」
と書かれているとの報道。
これに対してヴァレンティノは「事実を調査中」とメディアに説明。
それからなんと20日間沈黙を守り続けています。
西陣織工業組合に沈黙を続けるヴァレンティノは20日間何をしていたのか?
ヴァレンティノはその間何をしたのでしょうか?
・バレンチノ、ヴァレンティノ、バレンティノなどの検索上位に炎上記事がトップに上がってこないようにSEO対策。
・あつまれどうぶつの森に衣装提供で参加したことをtwitterでつぶやき批判を浴びて速攻削除。
・炎上後の度重なる自社ツィートを非難され削除。ツィートを諦め、プレスリリースを打ち出し、ファッションアカウントを通じて自社の服を宣伝。
こうした流れから、謝ったからもう収束したい。という本音が見えてきます。
この広告が香港と日本の限定的宣伝だったこともあり、WEB分析からヴァレンティノは炎上は世界に広まらず収束できるという算段という意見も出ています。
報道に消極的だったテレビ局が抱える事情
ネットや紙媒体に比べ報道に消極的だったのがテレビ局です。
ワイドショーで取り上げられましたが、出演者の意見も消極的発言にとどまりました。
それはなぜでしょうか。
芸能人は様々なパーティーにお呼ばれするときにこうした高級メゾンから衣装を借りている恩があるからです。
一方TVも番組タイアップで高級メゾンから衣装を提供してもらっているから強いことを言えないのです。
例えば、現在放送中のドラマ「リコカツ」をご覧になっている方もいらっしゃると思いますが、こちらにもヴァレンティノの衣装は提供されております。
北川景子さんが着用したあるシーンの上下一式小物はヴァレンティノだけで軽く80万円を超えます。
こうした衣装代は到底番組予算ではまかないきれないのでタイアップありきが実情です。テレビ番組のエンドロールを見ているとたくさんの衣装ブランドのロゴがでてくるのはこのような協力関係があるからです。
一方提供する側のメーカーは、芸能人の着用で広告費をかけることなく露出ができるメリットがあります。すでに北川景子さんの衣装はTwitterでも話題になっていて、炎上対策で直接ツィートを発信できない環境下にあるバレンティノにとってはイメージ回復のよい材料となっています。バレンティノは当然のことながら炎上対策の計算に入れていることでしょう。
ヴァレンティノに真摯な対応を求める署名運動に発展
西陣織工業組合の抗議に「調査中」としながら答えを提示しないヴァレンティノですが、だんまりを決め込んだ結果、ネットではじわじわと不祥事が取り上げられ、増殖しています。
youtubeでは、数々の解説動画がアップされ、公式が削除したはずの動画は違法アップロードが絶えません。
炎上をまとめたサイトも徐々に増えています。
これらがじわじわ増えていく理由は、ヴァレンティノ側の煮え切らない謝罪と回答に日本人が納得していない表明の一環と言えます。
そして、ついに現在「西陣織工業組合の抗議にヴァレンティノの真摯な対応を求める署名運動」にまで発展しています。
(現在も署名受付中)
署名は、ヴァレンティノ本社、イタリア大使館、経産省、文化庁へ提出される予定です。
ヴァレンティノは本当に日本をリスペクトしているのか?
ヴァレンティノの今季シーズンのキャンペーンテーマは、
“多様な声や視点を持った価値(Different Value)”=“DI.VA”
異なるカルチャーを持つ“ディーヴァ”たちを通じて、多面的な個性やインクルーシビティーなどを表現。
というものでした。共通のテーマで日本、韓国、中国とそれぞれの国のビッグモデルを起用して国ごとに作品を作り、ピンポイントでターゲットに訴求するという計画です。
日本版の広告はイタリア人のクリエイティブディレクターが掲げた“DI.VA”のコンセプトのもと、草迷宮をオマージュした作品を制作。寺山修司をリスペクトする東京在住の中国人カメラマンがスチールを、海外でも活発に活動する日本人のCMディレクターが動画制作を行いました。
ここでは、なぜこの状態でアウトプットすることになったのか、制作者たちの心理と炎上後のバレンティノの捉え方について考えたいと思います。
それに際して、
表現の自由に関しての意見もあると思いますが、炎上した時点で広告としては失敗(制作意図が伝わらなかった)とバレンティノも認識して広告を削除したと思うので、議題から除きます。
また草迷宮も帯の上を走っていてなぜこれはダメなのか?という議論もあるかと思いますが、炎上への心理を追うのが主題なのでこれも省きます。
本題に入ります。
炎上の発端となった帯を踏むシーンは、草迷宮の中の帯の上を裸の少年が走るシーンを強く意識したものと思われます。
撮影現場や世に出るまでのチェック段階で日本人スタッフが関わっていたはずなのになぜこのまま世に出てしまったのか?と言う意見もネット上では聞かれました。
あくまでもこれは個人的な想像ですが、草迷宮にとらわれすぎた故に、外国人が多く携わる現場の空気に日本人スタッフも取り込まれてしまい「日本人の常識=土足でものを踏むのはよくない」と言う大前提を置き忘れてしまったのではないかと思います。
その点については、謝罪文で書かれているように少なくとも「制作陣に」「悪気はなかった」というのは、嘘ではないと思いたいところです。
しかし「会社として」は、帯(にみえる布)については「帯ではない」と頑なに自己正当化を貫きました。ここに彼らの日本人への見識の誤りがあるように思えます。
問題はそこではなかったのではないのでしょうか。
つまり、「帯じゃなければ踏んでいいのか」という話です。
家の中では履物を脱いで暮らす日本人は、土足文化の国々の人の考える以上に「土足に敏感」な民族です。大前提として日本人の誰がみても「帯」であったことは大問題ですが、極論を言えばそれがたとえ帯でなかったとしても土足で布(もの)を踏むことに日本人は嫌悪感があります。
「土足でものを踏みつける=ものを粗末に扱っている。」と日本人は捉えます。幼い頃からそう教えられています。それが転じ、「土足で踏み入る」と言う慣用句に代表されるように「日本が大切にしている文化を異国人に土足で踏み入られた(蹂躙された)」と脳内変換されるのです。
ツィッターでは多くの日本人から、「自社の布を敬意を込めて踏んでみては?」「敬意を込めてヴァレンティノの洋服を踏みます」といった「踏む」と言う行為が「何を意味するのか」を示す数々の警告シグナルが出されていました。しかし、日本法人の社長は韓国人で、イタリア本国のCEOはヨーロッパ人。生活様式の違う彼らにはそこまでの理解は及ばなかったのかもしれません。
次に問題と思える点は、日本の民族衣装である着物文化に対するヴァレンティノの認識度合です。
因みに今季デザインで最も高いヴァレンティノのイブニングドレスは143万で販売されています。(日本国内)
他方、帯は人間国宝が作った帯であれば500〜600万するものもあります。着物も同様です。複雑な柄であれば1日に数センチしか織れません。とても手間暇がかかっており、人間国宝が織れば当然そのような価格がつきます。高級メゾンに勝るとも劣らない付加価値があります。
西陣織工業組合理事長は、
「職人が汗水を垂らし、命を懸けて作ったものを踏まれてどう思うか。ものづくりをされている方へのリスペクトを示してほしい」
と述べています。着物のことをよく知る人であれば共感できます。
中古の状態の悪い安い袋帯であればそれこそ500円程度から購入できますが、元はと言えば高級品。しかも袋帯のなかでも「織の帯」は第一礼装に使われるいわば正装の帯です。
しかし、こうしたTPOは着物離れが進む日本人でもよく理解していないのが現実です。外国人への理解を促すのはかなりハードルが高いと言えましょう。
そもそも、帯(にみえる布)を踏むこと自体が言語道断ではありますが、ヴァレンティノには日本文化の価値を正当に評価できるブレーンが不在だったのではないでしょうか。結果あのような顰蹙を買う謝罪になったのかもしれません。
また、危機管理の観点から考えるとあの謝罪で何が起きるか想像力が欠如していた裏には日本人への「甘え」(大人しいから大丈夫・あるいは差別)もあったのではないでしょうか。
この炎上を知る、ある日本人英語翻訳者は、「これが白人相手だったらこんな軽率な文化の切り取りはしなかっただろう。」と述べています。
また、ツイッターでは、イスラム圏文化圏の民族衣装に同じことができたか?と問う鋭い声も。
殺人事件まで起きた「悪魔の詩」事件を思い出せばイスラム社会が「土足で踏み入られた」時の糾弾の凄まじさは、日本人の比ではありません。
これらを総合的に勘案すれば
ヴァレンティノの炎上後の言動の数々は「姑息」に写り
「ヴァレンティノの日本文化へのリスペクトは口だけ。本当は日本を舐めてかかっている」と酷評されるのも仕方がないのではないかと思います。
ヴァレンティノの炎上対応は正しいのか?〜問われる老舗メゾンの品格〜
D&Gが中国で炎上事案を起こし中国から撤退を余儀なくされた時、D&Gも決して人種差別発言については謝罪しませんでした。
今回のヴァレンティノの対応も同様の流れを汲み、「帯」と指摘されたものは「帯ではない」との弁を貫き、帯職人たちの抗議を無視し続けています。
前項で紐解いたように、いくつかのタイミングでリカバリーするチャンスはあったと思いますが、それを迂闊に看過した結果、炎上をまとめたサイトは増え続け、しまいには署名運動まで起こされてしまいました。状況が好転しているとは言いがたい状況です。
果たしてこの方針は正解だったのでしょうか?
もし、ヴァレンティノの主張の通りであるならば、一般的な危機対応の常識として、迅速対応で早期決着を図るのが最も得策です。すなわち、西陣織・博多織工業組合の申し入れに対し、一刻も早く真相を明らかにして報告し、現物を公開すればここまでこじれることはなかったと思われます。
撮影地は日本ですし、美術手配も日本国内でしょう。
撮影を取り仕切ったプロダクション(あるいは美術会社)に提出された領収書やスタッフへのヒアリングを行えばどこで購入された布(あるいは帯)なのかすぐにわかるはずです。20日以上も調査にかかるものでしょうか?
同じ外資企業でもアマゾンのカスタマーセンターは大変丁寧です。お客様からの申し入れにすぐに電話が入ります。時間がかかる案件の場合はマメに途中経過をお客様に報告し、お客様が納得するまで対応します。
ヴァレンティノの対応は、およそ一流企業の対応とは思えず非常にお粗末です。
西陣織工業組合はフェイスブックで
「日本文化の原点を担う帯や着物に対して、世界中の多くのバレンティノファンに対しても、しっかりと真正面から真摯にお答えいただきたい。」
と声明を出しています。
日本人は、特に伝統工芸の世界では礼節を重んじます。その代わり筋を通せば「水に流す」のが日本人です。
裁判社会の欧米のように謝罪を恐れる必要はありません。国際スタンダードで危機対応する必要はないのです。
説明に納得がいき溜飲が下がれば、その後は不問とするのが日本人。
むしろ手打ちが行われた後にグチグチネチネチ言うの人々に対しては、同じ日本人の中で「恥ずかしい」という勢力が湧き、ヴァレンティノの擁護に回ってくれることでしょう。
他方、もしこのままのやり方を貫きうやむやに終わらせようとすれば、ことごとく今回の汚点を追求されほじくり返されます。
日本人は海外では「サイレント・ボブ(静かなる爆弾)」と呼ばれていて、最も接客が難しい民族とされています。その場で不満を言わず後からネットやSNSで手厳しい評価を下し、口コミで店の評価を下げるからです。
大人しいからといって放置していると、気がつけば沈黙の不買運動が始まっているから外国人の目には怖いと映るそうです。
日本で商売を継続するのなら、ヴァレンティノは今一度、日本人の文化・特性を研究し、「郷に入っては郷に従う(ローカルルール)」対応を検討すべきかもしれません。
このままの状況では、ことごとく汚点がついて回り、バレンティノの信頼回復は長期にわたって難しくなるでしょう。
日本人に好まれる重要ポイントは「潔さと礼節」です。
西陣織・博多織工業組合は
「襟を正して文書で反省を示すべきではないか」
と申し入れています。
今後、バレンティノはこの炎上をどのように収束するつもりなのか。
老舗メゾンの品格が問われています。
★追記(4.27)
ヴァレンティノ本社へ英語で抗議を送ってたアカウントを次々とブロック開始
衝撃です。
このまま西陣織・博多織工業組合の思いは踏みにじる予定なのでしょうか。
ヴァレンティノは完全に日本人をなめてかかっているのでしょうか。
「西陣織工業組合の抗議にヴァレンティノの真摯な対応を求める署名運動」
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