爽やかな天気と澱む心
ごん母はいつものスマホアラームで目を覚まし、強い光が部屋に差し込んでくるのを煩わしく思いながら、ごんの出勤前に弁当を作らなければ、と起きだした。
白米は寝る前にタイマーをかけていたから炊けている。水出しで濃い目に入れて作っておいた麦茶を水筒に入れ、氷を入れてお茶完成。ささっとできるおかずを作って弁当完成。
6時半。2階のごん部屋に行き、寝ているごんに「起きや」と声かける。
「わかってる」というので、パンツ1枚の裸で寝ているごんの肩をぐいぐい押してみる。「押すなや」という。ここはこれで終了にして階下に降りる。
7時。アラームが何度もなり続ける。ごん母は過保護かと思いつつも、「電話なってるで。起きや」と声かける。「仕事行きや」
「わかってる」というごん。
目を開かず転がっているまま微動だにしない。
「仕事いく」というが寝たまま体位も変わらない。
「そやかてお金ないんだから、集合時間に遅れたら電車で行くお金もないやろ。はよ行きや」
…とはいえ、急いで行ったところで集合時間を過ぎてるだろうけれど。
「お前そんな態度とってわかっとんのか」
寝ころんだまま少し目を開いてスゴむごん。
「別にいいよ。お母さん、仕事休んでないし、遅刻もしてないし」
一体このやり取りを何度繰り返しただろうか。
最初こそ恫喝され、怯えて、つっかえつっかえどもるようにしてしか答えられなかったのに、今やさらっと言い返せる。
部屋のドアを開けたまま行こうとした母の背中に向かって「ドア閉めとけやー」と叫ぶごん。あほらし。2メートルくらい転がって自分で閉めろ。
今日も無理か、ごん母は諦めて1階に降りた。
一度止んだアラームが、また鳴り響いているようだ。
スマホの電気を食い尽くして、スマホが壊れればいいのにと思う。
嫌な時代。電話だけできればいいのに、完全に壊れるのも実に厄介。
15歳で高校を中退してから、これをずっと5年は繰り返していて、特に最近、新しい会社に入って3日以内にこれが起きる。
よくこれで平気にまた出社できると思うが、ごんは”そういう業界”だという。そうかな?
こんなことを繰り返してもお金は入ってこないし、周りから信用されなくなり自分を建て直すのにパワーを余分に使うようになる、と思うが、自分自身が変わることを望まない限り、どうすることもできない。
親が何かをできるか?
保護責任?
充分してきたなぁ…
かくして、今日もごん母の心には、どんよりしたシミが広がるのだった。
梅雨の青空がこんなに爽やかなのに…