
【小説】アイリス王国物語 6
「じゃあ、あなたは別の世界から来たの?」
驚いた顔をしてカミラが聞いてくる。
西洋人は金髪、碧眼、白い肌とインプットされているので、みんな同じ顔に見えてしまう。逆に西洋人から東洋人を見ると、やはり同じように見えるのだとか。これは自分が居た世界での話であるが……。
なので髪型で判断することにした。
カミラは肩まで垂らしたストレートヘアでセンター分け、っぽい。
「そう、一度死んだ」
「そんなことがあるの?」
そう聞いてきたのはセシリア、ウェーブがかった長い髪を後ろでまとめている。
「自分でもよくわからん。一度死んでみることだな」
「あのね! 簡単に言わないでよ」
ソフィアがムッとした顔で言う。
「じゃあ、複雑に言えばいいのか? どうやって?」
酔った勢いで言ってしまった。
「なんなら、もう一度……、試してみる?」
ソフィアの目が据わっている。
「遠慮しておきます」
両手を挙げて降参を表現した。
「そうなんだ、死後の世界ってあるんだ。そうなんだ」
妙に納得しているのはエミリア、茶色っぽい髪で短髪。四人の中では少し子供っぽい。火矢を射たのは彼女だ。
そして、なんで気に入られたのかわからないが、俺の膝の上に座ってつまみを食べているのはティナ、年は十三歳だそうだ。髪型はハーフアップにしている。
「もう俺の話はいいだろ。今度はそっちの番だ」
衛星と左目のことは言わないでおいた。というか、どう説明していいかわからない。
「そうね……」
四人で顔を見合わせている。
「さんざんぱら聞いておいて、自分たちはだんまりかよ」
「じゃあ、とりあえず……。あなたのところに座っているティナは、アイリス王国の第一王女よ」
カミラが代表みたいな感じで話し始める。
「はっ? なんで……、ごほごほ」
酒が違うところに入った。
「なんでここにいるかって?」
「ごほごほ、そうだ」
「第二王子とその母親、あと、その一味が反旗を翻したの」
クーデターってやつか?
「で、敗れて逃げてきた?」
「勝敗は関係ない。軍は動かなかったんだから」
カミラがソフィアの方を見ながら言う。ちなみにソフィアは副将軍だそうだ。
「じゃあ、軍隊は誰についたんだ?」
「誰にも。将軍は宮殿のごたごたには関わりたくないって、部下たちを連れて出て行ったわ」
「じゃあ、この国の勢力は三つってこと?」
「まあ、そういうことになるのかな」
意外な言われように少し驚いたようだ。
「でも、ふつう逃がさないよな。どうやって」
「ここに来れたかって? 第一王女直属の親衛隊が逃がしてくれたの」
で、その隊長がエミリアなんだとか。
「そういうことか。ところで、国王っていないの? 継承権って決まってない?」
「国王陛下は崩御されたわ。もちろん継承権の第一位はティナ様よ」
カミラがティナを見ながら言う。
「王妃様は?」
「陛下の後を追うように……」
四人が寂しそうな顔をする。
「襲ってきた連中は、第二王子の手先?」
急いで話を変える。
「どうだろう」
カミラがエミリアの方を見る。
「功を焦った兵士かな。たぶん」
「じゃあ、仲間が来ることはないんだな」
「来ないと思う」
とりあえず一安心だ。が、断言はできない。
「で、その第二王子とやらの年齢は?」
「十五歳」
「十五歳で反旗を翻すとは思えないんだが……」
あくまで自分の居た世界が基準だ。
「後ろに大物がついているの……。宰相よ」
なんだ、よくあるパターンか。自分の居た世界と変わらないじゃないか。
「なるほど。もしかして、その宰相というのは第二王子と姻戚関係があるとか」
「第二夫人の父親」
孫か。そういうことか。
「それで……、どうするつもりなんだ? 一生ここで暮らすのか?」
四人が顔を見合わせる。
「そうね……、それでもいいんだけどね」
カミラがしみじみと答える。
「将軍が羨ましい」
「私はけっこう楽しんでるわよ。ここでの暮らし」
「みんな、家族はいないの?」
「まあ、いろいろとね」
カミラが言葉を濁す。あまり立ち入らないほうがいいか。
「なんか、眠くなってきた」
「そうね。寝ましょう」
その言葉で飲み会はお開きとなった。