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花屋の少女

一週間に一度だけお店が開く花屋があった。花屋では可愛い少女が一名で切り盛りをしていて、朝一番太陽が昇る時間にお店が開き、お店の花がなくなると店じまいになる。なぜ一週間に一度かと言うと、そのほかの日は森や野原や自家栽培の畑に花摘みに行くからである。遠いところは往復二日かかるところもあるということらしい。

少女の売るお花はどのお花も瑞々しく、買って帰っても長い時間美しさを保つということで評判だった。だから不定期で開くお店の前にはいつも常連客が訪問し、お店が開くのを待ち望んでいた。そして、お店が開いた日にはまたたく間に花は全部売れてしまって、太陽が真上に上り切る前に店じまいとなることが多かった。

お花に触れる時の少女は見るものを感動させる鮮やかな手つきで、アレンジメントや花束を作り、どこから取り寄せているのか分からない美しい材料を使ってラッピングをしてくれる。そして、お花を見る眼差しには愛情がこもっていて、それゆえにお花は長持ちしているのだと客たちは話している。

ただ少女には秘密がたくさんあって、お花を摘みに行っている姿を見たものはいないし、美しさゆえに言い寄ってくる男たちも多いはずであろうに、浮いた噂を聞いたことがなかった。

小さな女の子がおばあちゃんの病気のお見舞いにアレンジメントを買いに来た時に、握りしめた300円のお金で、小さな女の子と一緒に長い時間かけて花を選び、一緒に飾りつけ、ラッピングはサービスで作ったことがあった。そのおばあちゃんはアレンジメントの花に癒されて、長い間患っていた病気がすぐに治ったこともあった。

もてない男性が好きな女性に贈る花束を作るときに、相手の女性の特徴とか、どんなところが好きなのか熱心に聴いて、いろとりどりのミニバラを集めて花束を作り、二人のキューピット役になったこともあった。その男性はその女性と今でも幸せに過ごしている。

そんな謎めいた力を持っている少女だけど、いつも控えめで自分のことは二の次で、今もどこかで美しい花を摘みに、あちこち歩いて回っているのだ。そして、そんな少女に出会うことを楽しみに、届いた花を買うことを楽しみに待っている街の人たちがたくさんいるのだ。

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