老舗茶店を、野菜茶・蔵カフェでイノベーション〜新潟・田中清助商店〜
エスイノベーションの大杉です。エスイノベーションでは、地方企業のDXや事業承継を応援しています!事業承継をきっかけにイノベーションを起こした企業にインタビューする「地域からはじめる事業承継」 今回は、天地人の里・新潟県与板町に江戸から続く老舗茶店「田中清助商店」を取材しました。オリジナル商品と、お茶を楽しむ新たな空間を提供することで、イノベーションに成功した、田中洋介社長を紹介します!
老舗茶店の8代目として
ー 与板の商店街、レトロな落ち着きがありますね。
今はシャッター街になってしまった与板の商店街ですが、私が子供の頃は賑やかでした。当時は、八百屋はもちろん、本屋、おもちゃ屋、映画館もあっって。なので必然的に周りには自営業の子供も多く、お茶屋の息子として違和感なく育ちました(笑)
学校から帰ると、店がお客さんで賑やかなのも嬉しかったですね。子供の頃は、海苔の袋詰めやシール貼りなど、店の手伝いをしましたけど、自分がお茶屋を継ぐなんて全く頭になかったです!
学生時代は、気象気候への学びを深めたくて、筑波大学に進学しました。卒業後の就職先として、気象関係も候補にあったのですが、今後、世の中のベースになるであろうIT技術を学びながら、様々な産業に関わることができるシステムエンジニアの道を選びました。具体的には、流通EDIシステムの開発担当として企業の経営に関わりました。東京で働き、長岡花火や与板祭りなど、地元の祭りに帰省することが家族の楽しみでしたね。人にも恵まれ、仕事は順調でした!
Uターンのきっかけ
ー Uターンを意識したきっかけは?
仕事を始めて8年目の夏、担当していたシステムが大きなトラブルを起こしてしまって。それが、長岡花火で帰省していた時だったんです!長岡花火を全く楽しめなくて…。この出来事が、仕事中心の日常を見直す大きなきっかけになりました。私の場合、地元に貢献したいというプラスの感情があった一方、仕事を中心とした日常から脱却したいというマイナスの感情もあったりと、さまざまな感情が重なり合って、地元を意識しはじめました。
約1年半の期間をかけ、エンジニアの業務を後任に引き継ぎながら、Uターンの準備をしました。9年間システムエンジニアとして働き感じたことは、「システムの上に経営がある」という事です。地元では「経営コンサルタント」として、地域企業の経営改善に取り組みたいと考えていました。そんな時、Uターンをサポートする人材サービスの担当者にアドバイスを貰う機会がああったのですが「田中さん!経営コンサルタントとして企業を見るよりも、経営する側の方が向いてますよ」って(笑)
Uターン先の人材でマッチングしたのが、地元の建設業「ダイエープロビス」。経営企画室で経営に携わる事になりました。
ー 地元・与板での出発、ライフスタイルの変化は?
地元企業の経営企画室で働き、長女が誕生しました。中小企業診断士資格の勉強も始め。さらに、地元の市民活動(ながおか若者会議)の参加も始めました。仕事を中心とした生活から、仕事と家庭のバランスが取れた生活に変わりました。ですが、地元に戻った事で、実家の経営がより身近になってしまったんですよね…。
ー その当時の田中清助商店の経営スタイルは?
お茶や海苔などの乾物を取り扱っていました。どれも与板で生産しているわけでなく、産地の問屋から仕入れて、小分けにしてスーパーや商店に販売する、いわゆる昭和時代の卸売りメインのビジネスモデルでした。創業時から付合いのあったスーパーでのお茶の売上は、スーパーの拡大とともに右肩上がりでしたが、時代が進むにつれ、地域のスーパーにも全国的な有名ブランド商品が多く並ぶようになり、売上は落ち始めていました。
ー 前職の経験からも、これは見過ごせない状況ですね…
両親はお茶屋の経営に苦労していたので、私たちに家を継げとは言いませんでした。ですが、江戸から200年も続く老舗を両親の代で閉じてしまって良いのか…という思いがあったのも正直な所です。さらに、市民活動で出会った方々の多くは自営業。経営者として眩しい光を放っているように感じました。中小企業診断士にも合格したこともあり。これまでの経験、学びを田中清助商店でも実践してみたい!2016年に2年間勤めたダイエープロビスを退社し。田中清助商店に入ることにしました。
家業に入り新規事業を展開
ー 会社員から家業へ!ご家族の反応は?
そうですね。妻は「やりたいことをやったら良いんじゃない」って応援してくれました。でも父には案の定、賛成してもらえませんでした。「お前にやる給料はない!」って感じです…(苦笑)まあ、経営状態もわかってましたからね。田中清助商店の、卸小売業などの既存事業は今まで通り父に任せ、私は、新規事業という形で、自分の給料は自分で稼ぎました。
ー 具体的にどんな新規事業を展開されたのですか?
まずは、新規顧客の取り込みです。日本茶インストラクターの資格を取り、お茶講座の開催や発信を始めました。お茶という「モノ」ではなく、お茶を飲む「コト」を提供することを意識し、お茶の飲み方を提案したり、キッチンカーを用いてイベントで日本茶ドリンクを販売しました。さらに、付加価値を上げて利益率を高めるために、商品開発をはじめました。それが、地元野菜を自家焙煎し、お茶に仕上げた「長岡産オリジナル野菜茶シリーズ」です。野菜茶は、新潟三越伊勢丹の越品シリーズ(伊勢丹バイヤーが新潟が誇る銘品をセレクト)にも選ばれました。
ー 新規事業の手応えはいかがでしたか?
そうですね。野菜茶は特に地元メディアにも多く取り上げられましたし、新規事業に関しては、少しづつですが、売上が伸びていました。でもそんな矢先、新型コロナウィルスの流行で。キッチンカー、日本茶講座やイベント出店などは、軒並み中止となりました。既存の卸小売事業も売上が減少していましたし、会社には返済の目処の立っていない借入金もありました。ここで会社全体の経営を立て直さないと大変な事になるだろうと感じました。そこで、父と二人の伯父を交え、親族で借入金に関して話し合う事になりました。
事業承継の準備(借入金返済)
ー 借入金はどうやって整理したのでしょうか?
老舗を継ぐって、信頼、固定客の存在、いい部分も沢山あるんですけど!いや〜、借入金の問題が一番のネックですよね。設備投資など後の収益に繋がる借金ならいいのですが…。返済の目処がない、手を施さないままの借入金が会社にはありました。これが老舗200年の歴史といえば聞こえが良いのですが、私が事業承継し代表になった場合、経営者保証は私が負う事になります。
まずは、具体的な数字をあげ両親と伯父に説明しました。新規事業として設備投資した部分は、私が責任を持って返済する。田中清助商店として代々積み重ねてきた借入金の返済に援助をお願いできないかと話しました。実は、伯父たちも心配していた部分が大きく、借入金の一部を父と伯父たちが、
残りは私が事業承継後に返済することで話し合いがまとまりました。
ー 借入金返済の目処は、事業承継の決意にもなりましたか?
そうですね、責任感の面でも大きく変わり、事業承継の目標を2021年の10月として準備をはじめました。
また「経営者保証のガイドライン」があると知り、2020年の8月から銀行担当者に相談を始めました。これは、一定の条件をクリアすると、保証人にならずに済むという制度です。特に事業承継時は、円滑化を図るため「事業継承に焦点を当てた「経営者保証に関するガイドライン」の特則」が適用されます。家業を承継する前に、経営者保証(金融機関から融資を受ける際、経営者が会社の連帯保証人になること)が「ある」と「ない」では、気持ちの面の違いは大きいじゃないですか!
約1年をかけて、在庫処分、減価償却、会社と個人財産の棲み分け、事業計画書作り、銀行と交渉を続けました。ですが、銀行からは経営保証は外せないという回答でした。事業承継後の成長可能性を考慮してもらえるはずの制度が、残念ながら、重視されたのは事業承継前の実績でした…。でも、やり取りをした事で、個人と会社の資産の分別も明確になりつつあります。
今は完全に切り替え、事業を軌道に乗せ、私が保証人になっている経営者保証が外せるよう、早めに返済することを目標の一つに頑張っています。
ー 2021年10月1日代表取締役に、変化は?
父には卸業務の継続、母には既存のお客様の対応や袋詰め。妻は商品開発に協力して貰っています。経営に関しては、紙伝票のDX化、経営のクラウド化です。データ化する事で仕訳作業の効率も上がり試算表のスピード化にもなりました。個人と会社の資産の分別も明確にしています。
商品別にデータ管理したことで見えてきた事もあって。実際、スーパー向けの売上は下がっていましたが、分析してみると、お茶自体はそれほど落ち込んでいませんでした。
大手ブランドと、田中清助商店のお茶には味の違いがあります。お客様は、飲み慣れた味を繰り返し購入する傾向があり、スーパーの売り場でもうちのお茶は、大手ブランドと住み分けができていました。「お茶がうちの最大の強みである」ことがわかり、お茶を中心とした品ぞろえにシフトしつつあります。
ー 蔵カフェ!話題になってますね!
新しい取り組みとしては、会社にとってのマイナスの資産だった蔵をカフェに改装した事です。ここでも父には「こんなとこでやってもお客なんて来るわけねえ!」って反対されましたけどね(笑)長岡造形大学の皆さんのお力も借りて、日本茶蔵カフェ「茶々いま」をオープンする事ができました(2022年5月)。新型コロナウィルスの影響を受ける時もありますが、カフェの営業は順調です。
親族承継のメリット・アドバイス
ー 親族承継のメリットは、どんなところで感じていますか?
日本では、まだ親族承継が一番自然な形で捉えられていると思うんですね。第三者承継!M&A!ってよりは、お客様、仕入れ先に対して、信頼の継続ができた事。とにかく周りからの評価は高いです「よく継いだ!」と(笑)。悪い評価はなかったと思います。
ー 親族承継を考えている方へアドバイスをお願いします!
親子だから「わかり合える」って考えは、捨てた方がいいかな。親子であっても、商売に対しての、時代、背景、価値観は別です。「わかり合い」を前提に話し合いを進めるとストレスになるので、会社を存続させるという目標をベースに、「数字・実績」を示しながら冷静に進めていく事が大事だと思います。
それと。経営者保証って、引き継いで当たり前でしょ!って方が多いと思うのですが、国のガイドラインですし、金融機関に交渉する価値は絶対あります。銀行に対して弱気になる必要もないですし。利用できるか確かめる事で、会計面や、在庫など、会社の現状を知る事にもなります。
ー これからの田中清助商店について教えてください
一つの目標として、蔵カフェをきっかけに店舗への集客力を高め、他者に依存しないビジネススタイルにシフトしていくこと。二つ目は、将来、子供達が田中清助商店を継ぎたいと言ったら、不安なく承継してもらえるような財務状況にしておくこと。子供達には、お茶屋じゃなくとも自営業として主体的に働いて欲しい。だから私たちが楽しく自営業しているところを沢山見せたいですね。
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