死にたがりを止めたい人へ

これは単なる意見であって遺書ではないし、自死を推奨したり否定するものではない。通報されたら困るので先に言っておく。

私には希死観念がある。もう思い出せないくらい昔から持っている。で、その上で色々な本を読んだり人と話したりして、常々思うことがある。

前提として、私は死ぬ時は樹海に行くのだろうなあと思っている。これは希望とかではなくて、おそらくその時が来たらそうするだろうなぁという考えだ。自然が好きだからとかそんなロマンチックな理由ではなくて、単純に「森に慣れていない自分が奥まで行けば出られなくなるだろうし、冬なら間違いなく凍死できるよね」という効率的な理由だ。あとは「死んだらその時だし、死ねなかったら生きるだけ」という江戸っ子らしい博打的な価値観にも基づいている。

当然、死ぬ時は樹海希望なので、行き方も調べてある。どういうルートで行くか、どれくらい時間がかかるのか、幾らかかるのかも調べたし、一時期はお守りのようにスクショを撮って眺めていた。一部は暗記している。本当にその時が来たらスマホも財布も置いていくだろうから。

で、そんな感じなので自殺や樹海の本を読んだりもする。その中に「樹海の歩き方」という20年近く前に書かれた本があった。ちなみにKindle Unlimitedで読んだ。樹海で見つけた遺留品や、警察の捜査の写真も含まれていて、読み物として最高に病めるのでおすすめだ。

さて、いつものようにお手軽な鬱を求めてこの本を読んでいると、なんと「発見した遺体の詳細」を記した章があった。簡単に説明すると、遺体がどれくらい古く(新しく)、発見された時にどんなものを持っていて、それから著者が推察した遺体の性別や年齢などが感想やエピソードを添えて記載されている。前述した通り、少し前の本なので、携帯電話やCDプレーヤーといったワードが飛び交い、平成ロマンを感じさせて趣深い。

さて、なかなかセンセーショナルとも思える部分なわけだが、そもそもなぜ著者はこんなことを記したのだろう?このように書いてあった。「遺体の状態を読むことで樹海で死のうとしている人が踏みとどまってくれたら嬉しい」。なるほど、首吊りや服薬という自死を選んだ人のカラダが時間経過とともにどのような凄惨な状態になるのか、それを発見した人がどうショッキングに感じるのか、それがどのように社会に(公安に)迷惑をかけるのかを知ってほしい。そして少しでも自殺しない道を選んでほしい、という考えのようだ。

良いだろうか?何年も死にたいと感じてきた人間として言いたいことがある。

「そんなこと知らんわ」

想像してほしいのだが、もし近しい人が「死にてえから樹海に行って死のうと思う」とか言ってきたら、あなたはどう説得するだろうか?「そんなの悲しい」「立ち直れない」「迷惑だからやめなよ」そんなことを言うだろうか?

私が誰かに死にたさについて語ると、傾向として、遺される側の立場からよく説得される。なるほど、自殺される方からすると、勝手に死なれたらどんな気持ちになるのか知ってほしいようだ。それから、たとえば線路に飛び込む話をするとしよう。すると、どれだけ新宿の社畜の出勤を妨げるか、どれだけ遺族が鉄道会社に賠償金を払うのか、ようするにどれだけ迷惑をかけるのかという論点で諭される場合が多い。まあ確かに、みんな大好き「完全自殺マニュアル」にも書いてあったし、遺族や社会に打撃を与えるのは事実のようだし、それは良い、わかった。

で、その上でもう一度言う。
「そんなこと知らんわ」

さて、死にたがりの世界代表になれるような立場でもないので、ここから書くのは個人的な意見だ。

まず、こちらは確固たる判断によって死ぬわけであって、自分がそのあとどんな状態になるのか、どれだけキショい肉塊になるのかマジでどうでもいい。前述した本の著者によるとハエやアリにたかられて腐敗して溶け落ちて殊勝グロテスクになるようだが、私からすると、食物連鎖のトップにいる人間が虫に食われて朽ちるのは、なかなか皮肉が効いていてグッとくる。

次に、こっちはとっとと退場するので、遺された人がどんな気持ちになるかどう感じるかもマジでどうでもいい。というか、自分が死ぬまで気付けずケアもできず引き留める力もなかった人たちがどんな気持ちになるかとか、そんなことまで背負えないので興味がない。後悔するくらいならこっちが生きてる間にもっと一緒に過ごせたらよかったね、と思う程度だ。

次に、ここまで語ればもうわかると思うが「知らん人たちに迷惑をかけるからやめなさい」と説得されたとしても「知らん人たちのことをなぜ気にすると思った?」に尽きる。これははっきりさせたいのだが、自死を選ぶほど追い詰められた要因の一つに社会があるというのに、なぜその社会のため自殺を踏みとどまらなければいけないのか。もはや意味不明だしロジックが破綻している。

では私のような「死にたそうな人」を止まらせるにはどうしたらいいのだろう?

答えは「共感」しかない。当たり前すぎて、わざわざ書きたくもないくらいだ。

なにもカウンセラーのように「死にたくなるほど辛いんだね。そんな日もあるよね」とテンプレでオウム返しして欲しいわけじゃない。というかわざとらしいのでやめてほしい。でも「何々の新刊が買えなくなるよ」「推しのグッズの新作、欲しくないの?」「クリアしてないゲームの続き、気にならないの?」だったらどうだろうか。そんな身近で親しみのある問いかけの方が「遺された我々はずっと凹むし、毎日泣くぞ」よりずっと響く。さらに言うと私は猫を愛しているので「猫が寂しがるよ」の一言があれば「あ、猫が悲しむなら今日は死ぬのをやめよう」と思えるに違いない。

というわけで、もし身近に私のような死にたがりがいるとして、あなたに少しでも引き留めたい気持ちがあるのなら、「お前は死んだら醜い肉塊になって虫に分解されて誰にも見つからず朽ち果てるし、公安にも遺族にも社会にも迷惑をかけるし何より俺は悲しい」ではなく、「お前の好きなソシャゲでもうすぐ期間限定のイベントがあるよ。あと、お前が昔好きだったバンドが10年ぶりに新譜出すし日本でもツアーするらしいよ。そういえばお前の推しの新しいアクリルスタンドが出るらしいけど、予約しておく?」と言ってあげてほしい。嘘でもいい。たぶん1週間くらいは死ぬのをやめると思うから。