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その35 意思決定の理論

 今回も「キャリアコンサルティング実施のために必要な能力体系」より意思決定の支援*¹についてその理論的背景のお話をしたいと思います。
 
 私たちキャリアコンサルタントは、システマティックアプローチというキャリア・カウンセリングあるいはキャリアコンサルティングの手法を学びます。
 キャリアコンサルティングは人に対する支援を目的にしています。個々人の価値観や行動が違うように、それぞれの相談は個別性が高く教科書通りに事が運ぶわけではありませんし、型にはまるものでもありません。支援の内容も多岐にわたりますが、一応の類型化をすれば支援の領域は大きく6つに分かれています。人によってどのような支援が必要かということは、信頼関係を作る会話の中で、話し合いながら探していきます。
  ①  自己理解
  ②  仕事理解
  ③  啓発的経験
  ④  意思決定(カウンセリング)
  ⑤  方策の実行
  ⑥  新たな仕事への適応
 今日のお話は4番目の意思決定ということで、その理論家や理論を紹介します。実は、キャリアコンサルタントの資格を得るための養成講座でもしっかり勉強したはずなのですが、実践的なフレームワークが先行していて理論的背景を整理していなかったなあと今回もちょっと苦労しています。

 まずは、実践的意思決定の方策です。ヴァンス・ピーヴィー.(米・加1929-2002)による意思決定方策モデルを下に示します。
  1.    意思決定のステップの説明
  2.    仮の行動が必要かどうかを決める
  3.    仮の行動を実行する
  4.    選択の可能性を広げる
  5.    選択可能な道それぞれについて、その適切さを調べる
  6.    可能な道のうち選ばれたものに費やされる費用と利益を検討する
  7.    暫定的選択をする
  8.    決定過程の完了

 この8つのステップは構成主義といわれる教育理論の流れを汲んでいます。構成主義は発達心理学の領域でジャン・ピアジェ(スイス.心理学者.1896-1980)の認知発達理論により理論化されています。それは知能の発達の過程が既存の枠組みを取り入れる「同化」と、既存の枠組みを変更して取り入れる「調節」があるとし、その相互作用、組合せによって多様な発達過程をたどる、としました。それまでの知識転移を目的とした学習ではなく主体的な「調整」過程と組合せが多様性の受容と学習の意味づけにつながるものと考えられます。
 それは、ピーヴィーの意思決定プロセスにおいては、キャリアコンサルタント(カウンセラー)による知識転移は目的ではなく、相談者自身が自己決定するための情報を提供と自己決定の支援(判断を共有し次の行動につなげる)を手段として用います。
 ここで一度、構成主義と、対をなす論理実証主義の世界観を整理しておきます。

論理実証主義と構成主義の世界観の比較

 こうして対比してみることで、現代のキャリア理論が構成主義の世界観で展開されていることがあります。それは、キャリアコンサルティングの理論、実践において相談者との信頼関係を構築するために「傾聴」が求められることからも分かります。カール・ロジャース(米.心理学者・カウンセラー.1902-1987)の来談者中心療法においては「肯定的関心、共感的理解、自己一致」という言葉で関係性の構築の重要性が表現されています。また、キャリアコンサルタントの倫理要綱の9条では「相談者の自己決定権の尊重」をうたっており、個人の意思決定つまり尊厳が大切と説明していると思います。

 最後に意思決定理論の代表的理論を一覧にまとめてみました。それぞれ特徴がありますが、ハリージェラットの「積極的不確実性」とジョン・クランボルツの「計画的風発性理論」は1990年代の産業・経済構造や技術背景の大きな変化を反映している点が興味深いところです。また、デイビッド・ティードマンが先に述べた構成主義が理論背景にある点も注目に値するかと思っています。

意思決定の代表的理論

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参考文献
森津太子、向田久美子. OUJ 心理学概論.放送大学教育振興会.2024.
渡部昌平.人物で学ぶキャリア理論.福村出版.2022.
引用文献
木村周.キャリアコンサルティング理論と実際 5訂版.雇用問題研究会.2021.P294
労働政策研究・研修機構(JILPT).資料シリーズNo.165.P78
*¹:キャリアコンサルティング実施のために必要な能力体系
  >III.キャリアコンサルティングを行うために必要な技能
   >二 相談過程において必要な技能
    >5 意思決定の支援
     >(1) キャリア・プランの作成支援
     >(2) 具体的な目標設定への支援
     >(3)能力開発に関する支援

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