俳文「成人の日」
生徒や学生の立場で祝日の恩恵を受けていた頃、成人の日は1月15日だった。しかし年度末の大試験や、進学のための入学試験がある1月は、多くの生徒や学生にとっては、大手を振って遊びに行かれる状況ではないから、それほど嬉しいものではなかったと思う。ましてや卒業論文を手書きで提出するように求められていた時代の学生たちは、祝日どころか、提出締切日までの毎日は、部屋から一歩も外に出ることができないくらいの極限状況に追い込まれるのがふつうだったのではないだろうか。
前世紀末から今世紀初頭にかけて、社会への週休二日制の浸透を踏まえたさらなる余暇利用の方策として、いくつかの祝日を月曜日に移動させることが決められた。まずは成人の日と体育の日、続いて海の日と敬老の日が、もともとその祝日があった月の、決まった月曜日に移された。この一連の動きには、後にハッピーマンデー制度とか言う、ファーストフード店の割引メニューみたいな呼称がつけられる。ともかくもその制度に従った今年の成人の日は、1月の第二月曜日に当たる13日であった。
毎週2度通っているカルチャースクールの教室の向かいに、ちょっと見ただけではどんな仕事を営んでいるのかわからない店がある。入口の全面にウレタン製の石積み風のパネルを貼ってあるのだが、たぶんそれは、金属か何かでできた殺風景な見た目の扉をカバーするためのものだろう。その扉の脇に、やはり石積み風パネルが貼られていて、そこには店の名前と「Nail Salon」の文字が書かれてある。
先週のことである。カルチャースクールに入ろうとしていたところ、後ろで、ネイルサロンのドアが開き、女性たちが何やら話をしながら出てくる音がした。そしてネイリストらしき女性が、「成人式、たのしんできてくださいね」と、客を送り出す声が聞こえてきた。成人式のために、きれいな服を着て、髪型を整えることはもちろん大事なことではあるが、爪とか、靴とか、とにかく末端に至るまで気を配ったものでなければ、完璧な身だしなみであるとは言い難い。日にちはどうでもよくなった成人の日だが、こういうのは、どうでもよいことにはしない方が良いと思うのだ。
爪みがきあげ成人の日なりけり 俄風