オタクではなくなった奴がコミケに行った話


初参加は中学3年生の冬

コミケに初参加したのは15歳の時。
当時のオタクは失笑される対象だった。
この1年前に、電車男のドラマが放送されていたことを思い出してもらうと伝わるだろうか。
当日の私は、地元の硬式野球チームに所属するスポーツマンの仮面を被った隠れオタクだった。
中学野球を引退した冬。冬休みを利用して夜行バス4列シートで東京に行った。
当時の情景の細かく思い出せないけど、1つだけ記憶に残っているのが、初手にTYPE-MOONに並んだら1日目がほぼ終わっていた、コミケは聞いていた通り恐ろしい場所であった

(当日のページが残っていた!!)

その後は3日間始発でフル参加。
何なら年明けに大阪の日本橋で"4日日"にも参加するほどの勢いでコミケを味わい尽くした。
高校生になっても夏、冬とフル参加。20歳の時にはサークル参加してコピ本を出したりと、オタクとして仕上がっていた。
ちなみに当時のコミケ上京した私の泊まり先が、2chのVIP板で知り合った東京住まいの方々。何なら今も東京に行くときには声をかけて、ご飯を食べに行くほどにゆるく繋がっている。
今年で出会って18年経つが、面白い距離感だなぁと思う。

仕事としてコミケに参加

23歳、好きを仕事にしたい気持ちでアニメ業界転職した。
アニメのPR番組を制作する、いわゆる制作会社である。
この会社では毎年コミケに参加することもあり、6月頃から忙しくなる。
販売商品としては、CD類が主力で数は30種類以上とめちゃくちゃ多い。
コミケの時期は一時的に業務負荷が高まるので、コミケの準備期間で初めての徹夜、会社での寝泊まり、新宿西口のカプセルホテルを経験した。

コミケでの業務はブースに並ぶ列整理。
真夏の屋外でひたすら列を詰めていた。ずっと声出していたら段々とハイになった記憶がある。
商品はコミケ限定商品はなく、後から通販で購入できるものばかり。なぜ真夏に並んでまで購入したいのか、それは1日でも早くゲットしたいからである。
そんなファンの方々に敬意を払いながら、企業側としてのコミケ参加が4年続いた。
初心者ドライバーなのに1tトラックで有明まで運転したり、担当番組を持つようになってからは担当番組のグッズを作って、現地でファンの方と交流したり、新たなクライアントを見つけるため挨拶に回ったりした。
東館のサークル側には行くことはなく、コミケは会社員として自社の売上を立てるための場所となった。
気づいた時にもアニメも漫画もゲームにも興味が薄れ、労働時間が多いただの会社員になった。

東京から離れて5年。
結婚前に実家の初版帯付きの漫画や、初回限定版、未開封のフィギュア、ツアーを追いかけて買ったグッズを全て処分した。
仕事も充実して、東京暮らしより快適な暮らしを送っているところに、偶にあの頃を思い出す。
毎週日本橋に行って同人誌を漁っていたこと、店舗限定特典を巡って店舗をはしごして、夜中までゲームしてネット実況していたこと。
自分の青春時代のほとんどをオタク活動に費やしていたあの頃が、時々とても眩しい思い出としてふと蘇る。そして、あの頃と変わらずに楽しくコミケに参加している人を羨ましく思う。時間とともに費やしてきたことが変われば、10年前と趣味は変わるのは当たり前だと思う反面、今はあれほどの情熱がないことが寂しくとも感じる。
このモヤモヤが解消できるのか、何か変わるのか、感じるのか分からないけど、とりあえずコミケに行ってみることにした。

6年振りにコミケに行く

コミケは3日間開催から2日間になっており、入場は有料に変わっていた。
コミケ初日に東京に行くつもりが、誤って前日着の新幹線のチケットを購入していた。
日中は神保町で古本屋を巡り、夜は新橋で18年来の友達と飲む。

翌日、午後入場に合わせて13時に会場に付く。
コミケ時の電車の異常な込み具合、この感覚、懐かしい。
国際展示場に向かって行く途中に高まる異様な熱気とふわふわとした一体感。
あぁ、久しぶりに来たな。と感じる束の間

暑すぎて列の途中で帰宅した。
コミケは午後から行けば待機列無しの感覚で行ったのが大きな誤算だった。
このために大阪から来たのに、入場前に帰るというムーブをかます。
何となくで行った人間の覚悟はこんなもんです。

リベンジの翌日
14時前に有明に着いて、スムーズに西館から入場ができた。
ちょうど企業ブースはイベント開催する時間帯らしく、ブース前に立ち止まる観覧が多い。
「そうそうこれこれ」「Vtuberブース大きいなー」「企業ブースこんなに涼しかったっけ?」「お世話になったあのメーカーさんまだ出展してる!」
無表情でノスタルジックになりながら東館へ向かう
混雑度と熱気が上がり、みんなの足取りが早い。
到着した東館。

この時既に15時過ぎていたので、二次創作ではなく評論島だけに絞る。
評論島をゆっくり回るのは始めてだったけど、壁や旬の創作島とは違う空気が流れてる、すごくのんびりした空気感。
タイトルで気になった本を立ち読み。
評論の全サークルの前と通った時には終演間近。
あぁ、やばい。予想以上に時間がかかってしまった。

結局購入したのは1冊だけ。
これにて6年ぶりのコミケは終了。

コミケに行っても特に変わらない

久しぶりの空気に触れたものの、アニメを見出したり、創作を始めるといったことなく、ただコミケに行って帰ってきた。というのが現状である。
昔の思い出が眩しく見えて、なにか今の自分に新しい何かが湧き出ることを少しは期待していたけど、それはなかった。
もうこれ以上押しても引いても、あの時に捧げた情熱は戻ることもないし、開くこともないんだな、と。
自宅に唯一残してた大好きな漫画を偶に読み返して、青春時代にタイムトリップするぐらいで自分の中で割り切ってみることにした。

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