爪楊枝とニット帽

いつかの冬、バスで座っていると前の座席のおじさんのニット帽に爪楊枝が刺さっていた。
丁度私の目の前にあったその異色の組み合わせのことをたまに今でも思い出す。

何故、あのおじさんのニット帽に爪楊枝が刺さっていたのか。
ニット帽に爪楊枝が刺さる状況ってなんだ?

私はそのおじさんのニット帽に爪楊枝が行き着くまでの、いくつかの仮説を立てた。

①飲食店でニット帽を取って机に置いた時に、備え付けの爪楊枝がついてしまった

これに関しては一番最初に思いついたが、よくよく考えると爪楊枝は尖った方がニット帽に刺さるような形で引っ付いてた。
大体お店の爪楊枝は尖った方を下向きにして入れられている為、取り出さないとニット帽に刺さることはない。

②使った爪楊枝を机の上に置いていて、同じように机に置かれたニット棒にひっついた

これは次に考えたが、私が目の前の光景に気づいたのはバスに揺られて10分ほど経ってからだ。
おじさんはその間ずっと私の前の席に座っていた。
おじさんのニット帽が毛羽立っており物をキャッチしやすそうだからといって、ただ触れただけで数分間しっかりと刺さるものだろうか。
ただ引っかかっているだけなら、ニット帽をかぶる動作をしただけで落ちてしまうのではないだろうか。

③家から既に着いていた

お店の爪楊枝ではないとすると、家から既に爪楊枝とニット帽はおじさんとともにやって来たのではないだろうか。
お店では尖った方を下にするはずだが、おじさんの家となると状況は分からない。
しかし、私が乗ったバスは駅から住宅街へ行くもので、時間も夕方だったこともあり、帰り道の人が多かった。
おじさんの家がどこかは分からないが、おそらくおじさんも駅または駅前で用事があり、それが終わって帰る途中だったのではないだろうか。
だとしたらだ。
爪楊枝はニット帽に少なくとも数時間はくっついていたことになる。
これは先程の説とも重なるが、やはりそんな引っ付いたくらいで、数時間おじさんの動きに耐えられるものだろうか。こちらも考えにくい。

④おじさん自らニット帽に刺した

なんとなく初めから思いついてはいたけれど、流石に違うのではないかと端に追いやっていた。
しかしとうとう可能性が出てきた。
・尖った方が刺さるようにして付いている
・恐らく数時間はその状況のまま耐えている
・おじさんは帰宅中(これは推測の域を出ない)
上記のことを踏まえると、おじさんは外出中、爪楊枝を手にして(もしくは使用して)それを自らのニット帽にしっかりと刺した。

爪楊枝がなぜニット帽に刺さることになったかについては、恐らくこの説が濃厚だろう。
何故、おじさんはそんなことを…
分からないが、所謂黒柳徹子的な…
収納のひとつとしてニット帽を使用したのだろうか。
真実はおじさんのみぞ知る…

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