ミスド

先日、帰宅途中でミスドのあの箱を片手に歩くサラリーマンを見かけた。

あの箱だということは、それなりの数のドーナツを買ったのだろう。
家族の分だろうか。
家族の顔を思い浮かべながら数ある中でドーナツを選び、それを片手に足早に家へ帰る…
きっと盛大に迎えられることだろう。
なんせミスドを片手に持っている。

勿論ひとりで食べるミスドだって素晴らしい。
仕事が終わり、自分のご褒美として帰りに買うミスド…お皿に乗せるもよし、袋から出してそのまま貪るもよし…
百貨店や行列のできる有名店で買ってきたものとは違う、庶民的で手頃な特別感が、ミスドにはある。

季節限定品にも惹かれるが、今風に言うと所謂"推し"ドーナツがある。
私も家族の分を買って帰るときは、父はこれ、母はこれ、姉はこれ…あとは誰でも食べられるようなもの…といった具合でいつからか何故かそれぞれの"推し"ドーナツを把握している。

因みに私はゴールデンチョコレートを"推す"。
一口食べただけで下にひいた皿に一斉に音を鳴らして落ちる「黄色のやつ」。
そんな恒例行事も楽しみのひとつである。

ミスドを自分で買うときに、少量の場合は紙袋で渡される。
正直にいうと持ち手が無いので荷物が多いときには困ったりするが、フランス人がパンを買った時のようにミスドを小脇に抱えて歩くのが、またいい感じだ。

ミスドの店舗の大半が、トレイとトングを使い自分で取る「パン屋式」なのも一役買っている。
ただショーケースに入ってる店舗では、一度過ぎてしまった道は何故か戻りづらい気がする。
なのでドーナツの前を通り過ぎるときは、自分自身と相談しながら、慎重に進まなければならない。
スルーする時は、そのドーナツに今生の別れを告げるが如く…真剣である。

因みに私の"推し"であるゴールデンチョコレートはトレイに乗せた段階で既に盛大に「黄色いやつ」をぶちまけている。
フフ…おてんばな奴め…
時たま、トレイの上でぶちまけた「黄色いやつ」が他のドーナツにくっついていることもある。

もうひとりミスドの"推し"がいるとすれば、汁そばだろう。
飲食できる店舗には大体ある汁そばは、あの素朴な優しい味が魅力的で、子供の頃はなんでこんな小さい皿でしか食べられないのだろうと思っていた。
今思えば汁そばにプラスしてドーナツも食べてもらうためだと分かる。
あの汁そばの塩みと甘いドーナツを合わせて食べたとき、我々は新しい扉を開けることになる。
(個人的にはオールドファッションが1番合うと思っている)

"推し"ドーナツの話をしたが、ミスドにはドーナツの人気投票なるものはあるのだろうか。
実際公式で行われているか分からないが、もし行われれば血を見る争いになること請け合いである。
もし、投票システムではなく売上でランキングが決まるとしたらどうだろう。
自分の"推し"をナンバーワンに輝かせるため、毎日ミスドに通い、"推し"ドーナツを買う…
SNSには、#ゴールデンチョコレートしか勝たんといったタグがついた、ドーナツの"積み"写真が投稿される…(勿論全て完食する)
各ドーナツの名前が書かれたのぼり旗が店舗の前に飾られ、その前で写真を撮ってまたSNSに…
それくらい、"推し"ドーナツへの愛着は凄まじい。

ドーナツのチェーン店としてもうひとつ有名なのがクリスピークリームドーナツだ。
何故かクリスピークリームドーナツは略さずにクリスピークリームドーナツと呼んでしまう。
「花より男子」の花沢類を花沢類と呼んでしまうのと同じように…
花沢類と道明寺のように、クリスピークリームドーナツとミスドには、それぞれ違った魅力がある…ということにしておこう。

これを書いている帰り道、隣にミスドの紙袋を抱えた人が座った。
きっと家までの道のりは、早足で歩くことになるだろう。

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