レモンポップへ弾ける愛を込めて

 さて。レモンポップである。
 先日のG1競走チャンピオンズカップで、有終の一着を飾ってみせた名馬だ。
 彼がどんな馬であったか。それを書き残しておきたいと思って、久々にnoteへ駄文を書き連ねようと思った次第である。私はニワカな競馬ファンに過ぎませんので、色々と拙い面はどうかご容赦いただきたい。

 はてさて、人間の興味とは移ろいやすいもので、私の最近の楽しみは中央競馬だ。ウマ娘というゲートウェイドラッグ入口にマンマと引っかかってしまったのである。毎週新聞を買っては、平場から当たりもしない三連単を百円単位で賭けている。夢は新車の大型バイク。バイクが手に入るのは免許返してからになってしまいそうな気配がする。アホや。
 もちろん11Rの重賞も外せない。やはり重賞の方が予想がしやすい。データや陣営コメントがより詳しく参照できるし、なにより馬のキャラクターもハッキリ掴める。なお予想はしやすいだけで当たらない。
 そうして中央競馬の重賞を見るようになってから、様々な名馬とドラマに出会わせてもらった。その中でも鮮烈に私の脳を揺さぶってきたキャラクター。それが、レモンポップと坂井瑠星騎手のふたりだった。

 彼らは初タッグで挑んだ2023フェブラリーステークスを、力強く制してみせた。その初印象は、ああなんと熱い連中だろうか。というもの。持ったまま四角を回ったレモンポップは、うねる様なストライドで先頭に立ってみせた。鞍上の坂井騎手も遮二無二鞭を振り、必死に全身を促す。彼のガッツを知ったのは、恥ずかしながらこの時だった。
 そんな彼らを信じ切れなかった私は、ドライスタウトからのワイドを流して無事に死んでいた。戸崎ィ! 
 レモンポップと坂井瑠星騎手。ダート戦線に颯爽と現れた彼らは、アンビバレントな魅力にあふれていた。爽やかな青い勝負服と栗毛の洗練された馬体に、坂井騎手の男前な面構えはとても映える。レモンポップはパドックでは舌をぶるんぶるんさせ、愛嬌を見せてくれる。
 けれど、レースに入るやいなや、彼らは野心的な騎乗と鍛え抜かれたケツトモを武器に猛々しく、勇猛果敢に先頭を突っ切ってゆくのである。
 爽やかさと情熱。それが彼らだけが持つフレーバーだった。柑橘の酸味と荒い炭酸水のハーモニーを思わせる、シンプルで爽快な楽しい味だ。

 海外への遠征は実を結ばなかったものの、日本復帰後の2023盛岡マイルCSと2023チャンピオンズCでレモンポップは、不安を弾き飛ばすような好走をしてくれた。いつしか私はレモンポップを必ず軸に買うようになっていた。
 まあ、「儲かるから」というのは実も蓋も無い理由だが、彼らのフレーバーの味に中てられて私は賭けていたような気がする。
 だから、レモンポップの気性が荒くなってきたという報道があっても、私は迷わず2024さきたま杯や2024盛岡マイルCSで彼を軸にした。
 あの盛岡のレースも素晴らしかった。ペプチドナイルの追撃を、ケツの分厚さと気迫で防ぎ続けた『ケツブロック走法』は後世に語り継がれるべきである。
 
 そして、引退レースの2024チャンピオンズCも、私はふたりの情熱に賭けた。賭けてみたかった。彼らが最高のレースを見せてくれると信じて。
 ゲートが開き、レモンポップは単独でハナに立つ。しかしミトノオー、ペプチドナイルのマークは手強い。外から被せるプレッシャーが、絶対王者の行く手を阻もうとしてくる。
 彼らに私は一万円の単勝馬券を賭けていた。別に外れたって良かった。彼らを信じて負けるのならば、納得できる。
 賭け事で最も大事な心構えは、勝っても負けても自分自身が納得できるかどうかだ。自信を持って選んだ選択肢が外れても、後悔しないものならそれで良い。(だから、納得できない額や後悔する選択を、決して選んではならない)

 西日へ逆らいながら、レモンポップはゴールを目指し砂を蹴り上げる。彼の馬体は夕日を受けて光り輝いていた。坂井瑠星騎手が何かを叫ぶ。その後ろにライバル達の鋭い影が迫ってくる。止まりかけるレモンポップの脚。前半戦で脚を削られ過ぎたのだ。駄目か。最後の直線で私は感傷に吞まれそうになった。
 しかし、レモンポップは止まらなかった。坂井騎手の呼びかけに答えるかのように、彼は再び加速した。馬へ心が通じるかというと難しいだろう。人と人ですら通じないものを異種で通じ合わせられるとは思えない。なのに、この瞬間だけはレモンポップと坂井騎手は心を一つにしていた。勝ちたい。誰よりも速く前へ。そのひたむきな情熱が彼らを突き動かし続けた。
 切れ味鋭いウィルソンテソーロの末脚も、よくわからないドゥラエレーデのイン突きも彼らには届かない。爽やかな後味を観客へ預けて、彼は最後のゴールを熱く駆け抜けた。その姿は美しく、弾けるように輝いていた。
これが、たった二年間で六つものG1級レースを征した名馬レモンポップのラストレースだった。
 これからレモンポップ号には次の大事な使命が待っていて、坂井騎手も次の更なる飛躍に向けて研鑽を積むだろう。空のグラスに新たな物語は注がれない。
 けれども私は忘れたくない。
 西日を受けて金色に輝く彼らが、中京の砂の上を駆けてゆく雄姿を。
 その姿は永遠に若いまま、気持ちの良い風をなびかせて、ずっと観客たちの思い出にとどまり続けるだろう。
 ありがとう、レモンポップ。

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