星の破片を拾いまして/烏龍水
あ、これは星のかけらだ。
庭に落ちてきたものを見てそう思ったのは、国語の教科書で読んだ記憶があったからだ。
夜空を滑っていくうちに角が取れて丸になった石は、触るとほんのり温かい。冬の朝だったから、気持ち良い温度だった。せっかくなので拾って自分のものにした。ただ、これを何に使うかが悩みどころだった。あの物語では女性の墓標になっていたが、自分が死ぬまで取っておこうか。だが、調べたら売れば良い金額になるらしい。臨時収入とするのも良いか。だが、この不思議な石をそう簡単に手放すのは惜しいとおもった。
考えが尽きたので、朝食の準備をする君に相談することにした。今日のご飯は、インスタントのキノコチャウダーに、ちょっと焦げたパン、イチゴソースが少しのったヨーグルト。飲み物は各々自由。でも、土で汚れて石を抱えた自分は何も触ることができない。
「なにそれ。」
「星のかけら。」
怪訝な顔で眺め回す君に温かい石を渡そうとしたら、汚れるからと拒否された。
「隕石じゃないの。」
「たぶん、ちょっと違うよ。」
隕石ならいい値段つくよと調べ出す君に、浪漫も何もないなぁと思いながら、首を横に振った。
「何か使えるかなって思って。」
「例えば?」
「…。」
腕の中の石を見る。ほんのりと石に接している腕と腹が温かくてカイロ代わりになるかと思ったが、いつまで温かいかわからないし、こんな大きなカイロは邪魔なだけだ。だが、あの物語のように、この石が自分のいる場所を示してくれるならば。
「万が一、僕が君と離れ離れになった時の目印にして。」
「…とつぜんなに?」
「そしたら、百年かかっても会いに戻るから。」
「…え?」
意味がわからないという顔の君を見て、この人はたぶんあの物語を知らないのだと思った。でも、これをそんな風に使わないようなことが一番だろう。
「売らないよ。僕の部屋に飾っとくね。」
「…そう。」
不思議そうな顔をまだする君に笑いながら、僕はこの泥を洗い落とすべく庭にまた出た。まだ破片は温かい。幾星霜と燃えて輝いていたのだから、なかなか冷めないのか。それとも、まだその光をこの中に宿しているのだろうか。そのどちらなのかもしれない。だから、あの女性は戻ってこれたのかもしれない。自分も、もしその時は、そうあれればいいと思って蛇口を捻った。