魔女集会であいましょう/烏龍水

 我々魔女にとって、〝黒“は秩序であり、厳格であり、そして、個である。誰が決めたか知らないが、そのような〝しきたり“なのだから年に一度の集会には、真っ黒な服装を纏い参加する。場所は毎年、世界のどこか。時間は日没後。そんな曖昧な通達だが、たくさんの魔女が集い、焚き火を囲んで話し込んだり、自作の薬を自慢し合ったりするのだ。
しかし、皆それぞれ真っ黒な服で、しかも魔女狩りの名残とかで顔を隠しており、加えて夜という暗闇の中のため、誰が誰だかわからない。視界が悪すぎて、周囲の魔女にぶつかるのは当たり前である。自分という田舎の引き籠り魔女は、人酔いを起こしかける始末だ。
そんな中、例年通り、ある魔女を見つけた。
「あら、お久しぶり。」
「久しぶり。」
その魔女も黒い服を身につけ、頭から黒いベールで口元まで隠しているが、真っ赤なルージュをつけた唇とその白い顔のラインが浮かび上がっていた。
「今年は大丈夫?」
「一応。」
自分は魔女集会に初参加した際、長年の引き籠り生活がたたり、人酔いしてグロッキーになっていたところを彼女に介抱してもらったのだ。それ以来、毎年、彼女を見つけると話しかけているのだが、この真っ黒の集団の中で良く彼女を見つけられると思う。
「酔い止めの薬飲んだ方がいいわよ。」
「うん、薬草欲しくて。」
「じゃあ、あっちね。」
魔女集会というが、なぜかフリーマーケットのスペースがあり、そこでいろいろな物が売られている。ちゃんと出展料が徴収されるらしい。彼女とフリーマーケットで薬草を買い、物珍しい鉱物やら動物の骨の店を見て回り、悪魔のところへ行って挨拶をしたり。焚き火を囲んで他の魔女と談話していると、朝日の兆しが夜空に出てきた。こうなると、御開きの合図である。自分は、いそいそと地面に瞬間移動の魔法陣を描き込んでいると、あの真っ赤な唇の彼女は箒に跨った。
「またね。」
「ああ、また来年。」
手を振り返してくれることに安堵して、曙の空と彼女を見送る。そして、自分も魔法陣の中に入ると、一瞬目が眩んで、そして、田舎の我が家に帰ってきた。
「ただいまー。」
使い魔の下級悪魔が恭しく出迎える。それに着ていた黒いローブと買ってきた薬草を渡す。
「今回もお食事は誘えなかったのですか?」
ギクリと体がこわばる。
「タイミングがなかったから……。」
「そう言うのも何回目ですか?!坊ちゃん!」
男でも魔法を行使すれば〝魔女“と呼ばれ、その数は多くなかったこの時代。加えて、そこそこ長く続く家系に生まれ落ちた自分にかけられる次の言葉を想像するに容易い。
「いつなったら私は貴方様の子の顔を見れるのでしょう!」
「うるさいなぁ!」
顔が火照るのがわかる。
チャンスはまた1年後。その間、また、後悔と不安に悩むしかない自分に、使い魔まで溜息をついたのだった。

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