ぼくとネコ/かやの夏芽

 まるい、とてもまあるいネコでした。お腹が太っていて、手と足が短くて、耳がたれていました。ひっくり返して見てもきっと丸いのだと思いました。
 ぼくは、そろばん教室の帰りに、このネコと出会いました。その頃は三年生になったばかりだったので、そろばんも始めたばかりでした。だから、ぼくには、まだそろばん教室に友達がいなくて、先生のお家から公園を通っておばあちゃんのお家に帰るまでの間、ずっと一人で歩いていました。その一人で通る公園には、『ふじだな』があります。『ふじだな』の下にはベンチが二つだけあります。まるいネコは、そのベンチの下で昼寝をしていました。ぼくは最初、だれかがボールを忘れていると思いました。でも、すぐに、違うと思いました。近くで見ると、毛が生えていて、ふさふさしていたからです。
「ネコだ!」
 と、ぼくは言いました。ぼくの声が聞こえたのか、ネコは片方の耳だけを動かして、顔をあげました。黄色っぽいような茶色いシマシマ模様で、目もやっぱり黄色っぽい色でした。ぼくと目が合いました。ぼくは、目も丸くて、すごいと思いました。
 ぼくが、ネコ、と声をかけると、ネコはそっぽを向いて、あくびをして、立ち上がりました。手も足も短かったです。でも、ぎゅっと伸びをすると、手と足が長くなりました。ぼくは、ネコが長くなるところを初めて見たので、やっぱりすごいと思いました。
 ネコは、伸びが終わると、公園の隅に歩いていきました。ぼくも追いかけようと思いましたが、ネコはぼくよりも小さいのに、ぼくよりも歩くのが早かったので、すぐにどこかに行ってしまいました。
 ぼくがネコに会ったのは、そのときだけでした。それからしばらくして、ぼくは、そろばん教室で友達ができました。そして、ぼくはネコのことを忘れました。だけど、今日、たまたまネコのことを思い出したので、今度は忘れないように、ちゃんと書いておこうと思いました。
 まるいネコへ。ぼくはきみを忘れていません。またいつか会えたら、うれしいです。

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