ウォーターフロントの朝/烏龍水
IKEAのベッドは最悪だった。
半地下の、1番奥の部屋。そこが私のホームステイ先で与えられた領地だった。そこにはホストファミリーが用意した机と椅子、ベッドに箪笥があった。なぜだか机と椅子は可愛らしい木製の、小鳥の彫りがはいった小綺麗なものだったが、ベッドが最悪だった。IKEAのロゴ入りテープが貼られたピンクのパイプ製のベッドは素敵だが、寝ると硬いし、冷たいし、寝返りのたびに不吉な音を立てる。それが嫌すぎて眠れなかった夜もある。
さて、そんなベッドから解放されるのが朝だ。
私は冬のカナダにしかいたことがないのだが、学校に行くために、日が昇る前にリンゴを齧っていた。そして、電車、といっても見た目はモノレールのようなものに乗り、30分は立つ。意外に人は多い。降りる人のために道を開けなくてはフランス語で罵倒されるだが、身動きが取れないこともあった。意外に、カナダの民は早起きである。
そして、終点ウォーターフロントに着く。
煉瓦造りの高い丸天井の通路を進むと、名前の通り海に面する道に出る。石畳にガス灯を模した街路灯と真っ白なブティックを通り過ぎて、土産屋のテディベアに会釈すると、通っていた語学学校のある建物が見える。その一階にはカフェが入っていて、授業までの朝をそこで過ごした。りんごでは足りなかったから、朝食にケーキかサンドイッチを頼み、コーヒーを飲んだ。コーヒーは種類がたくさんあって何が何だかわからず、毎回適当に指をさしたものにした。
全部、深煎りの苦いコーヒーだった。
ホイップがのっていたものもあったが、そこの店は甘さ控えめが売りらしく、苦い。飲めたもんではなかった。だが、20の私は大人ぶってガラス越しの、大して仲の良くないクラスメートにカップ片手に会釈したのだ。そんな冬を一つ過ごした。
今でも、あのIKEAのベッドとコーヒーの苦さはゴメンだ。だが、ウォーターフロントの朝の空気だけは、私の肺の隅にいて欲しいと思う。