シネマ/烏龍水
小説のネタが浮かばないので、映画館に行ってみた。特に見たいものがあるわけでは無い。
入り口からふかふかした床に、薄暗い館内。子供の頃は怪しい雰囲気を感じていたが、今はどうってことはない。自動発券機と電光掲示板、奥の売店がチカチカと光り、異様に目立っていた。自動発券機のパネルを触りつつ、何を見るか悩む。待ちたくないので、直近の上映で、でも、どうせならタイトルから話がわからないものがいいと思って、フランス語っぽいタイトルの映画にした。1900円の料金に随分高くなったと感じつつ、次は売店で飲み物を買う。ポップコーンは残してしまうから、買わない。
温かい紅茶をノンシュガーで頼み、両手で抱えながら、入場する。特典とかはなかった。
でっかい数字の光を通り過ぎながら目的の8番シアターに入り、周りをそこまで気にしないで済む最後尾の真ん中の席に着いた。映画の告知が流れ続けるなか、お茶を飲んでいると色々な人が入ってくる。中年のおじさんおばさん、若者、親子連れはいなかったから、そういう映画なのかもしれない。映画泥棒をとっ捕まえる映像の後、映画館の照明がさらに落とされた。
物悲しい話だった。
母が幼い子を殺した理由を探るミステリー的な要素もあったが、誰も救われないような鬱々とした映画であった。まだ、殺しの描写がないだけマシかと思ったが、母役の女優の口から語られる生々しい描写が、恐ろしいというか、悲しかった。
スタッフロールまで見て、おまけ映像がないことがわかってから立ちあがる。ぼわぼわする頭でゴミ箱に飲み物の容器を捨てた。そんな頭はまだ空想に浸りたいようで、あの母子は劇的な出来事があったが、私たちだってあの大画面と客席さえあればシネマティックになるのだろうかと考えついた。
ふと、お手洗いに行きたくなった。そんな生理現象に私の空想は塗りつぶされてしまったのだった。