マイ・アイスクリーム/かやの夏芽

 防災無線が屋外での活動を控えるように言っている。
 くしゃくしゃのタオルケットをのけて身を起こせば、やけに室温が快適である。茉莉はエアコンのおやすみタイマーをし忘れていたことに気づいた。
 おろしたてのシーツのように、さらさらとした空気が部屋に満ちている。カーテン越しに感じる空気は熱っぽい。七月半ば、日曜日、おそらく雲ひとつない快晴。要するにおうち時間に向いている日だ。そう解釈して、茉莉は再びマットレスに身体を沈めた。
 寝て休日を潰すなんてきっと大学二年生にしかできない。来年の今頃とか、インターンがどうとか会社見学とか、そんなことを言っていたら世にも貴重な二十四時間をムダになんてできないだろう。だから今のうちにやっておかなければね。
 それから二度寝、三度寝、とうとう四度寝までした。四度寝の夢の中で、茉莉はアイスクリームを食べていた。夢に温度があるなんて珍しい――と思ったが最後、目が覚めた。アイスは茉莉の手からこぼれ落ちてしまった。
 ああ、私のアイス。でも残念がってもどうしようもない。茉莉は諦めて起き上がり、パジャマを脱ぎ捨てた。
 冷蔵庫から水を出して一気に呷る。ついでに庫内をざっと見渡す。ドアポケットにはいつも通り、タマゴとギリギリ生きている牛乳、たぶん死んでるバニラエッセンスがいる。バニラエッセンスは去年のクリスマスに友達とケーキを作った残りだ。フタを開けて鼻を寄せる。意外にも長寿なのか、死臭はしない。
 たしか、アイスって牛乳とタマゴだけでもできる。
 サイドテーブルで惰眠をむさぼっているタブレットを叩き起こして、適当なレシピを探した。『牛乳、全卵、バニラエッセンスでバニラアイス!』。やっぱりできる! 茉莉はすでに気分が良くなった。すぐに作り始める。
 バニラアイスを作って食べる日曜日。ゴキゲンのあまり字も余らせながら、鍋をかき回した。
 一旦冷凍庫に押し込んで、あとはタブレットと戯れていれば、それだけでアイスができてしまった。いちばん気に入っている器とスプーンでいただく。まあ、当たり前のように市販品のほうがおいしい。でも夢の食べ物に味があるとしたら、きっとこれくらいがちょうどいい。茉莉はゴキゲンにゴキゲンを重ねながら、愛しい現実を味わった。

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