飛べチョコレート/烏龍水

 甘さ控えめのチョコレートを用意してた。
去年のバレンタインデーは手作りのチョコレートで、何回も試作してたが、結局彼好みの甘さにはできず、あまり良い顔をしてもらえなかった。それを踏まえて、今年は、インターネットで調べた甘さ控えめで評判の良いものを買った。
 だが、バレンタイン一週間前の今日、渡す予定だった人は、彼氏から他人へと関係性が変わってしまった。きっかけは、些細なことが積み重なって、私の感情が爆発したため。それにつられて、相手も感情的になってしまい収拾がつかなくなってしまった。最後なんて、「嫌い」しか言わなくなっていた気がする。ニ年間続いた関係は、三〇分の口喧嘩で幕を閉じた。

目の前にある、シックな赤い包みのものは居心地悪そうに私の前に置かれている。相手のいなくなった贈り物のため、自分で食べるか迷ったが、多分、味も見た目も、なんならパッケージも己の好みではない。私はチョコレートなんて、甘ければ甘いほど良いし、この値段を出すならキラキラした可愛い見た目ではないと納得はいかないし、好きな色は水色だ。
いっそ捨てるか、もしくは、知らん顔をして渡すつもりだった相手に渡してしまうか。だが、関係性が変わってしまった以上、このチョコレートを渡す権利も無くなってしまった。けれども、他の他人に渡すことなんて、考えたくもなかった。

行き場のないチョコレートを前にして息をついた。私の微風で、目の前の包みが飛んでいってしまえばいいのに。そう思っても、チョコレートに巻かれたリボンはぴくりとも動かなかった。

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