ぬくもり/かやの夏芽
昨日、寝しなにふと公園に行きたいと思った。朝になってもまだ行きたいと思っていたから、裕大は今、公園にいる。我が家の愛犬・コムギくんと共に。
三角公園は家に程近いのに、住宅街の外れのためか絶妙に生活圏と被らない。最後に来たのは中学の頃、たぶんコムギの散歩だ。ひい、ふう、と数えて、中学生だったのがもう六、七年前になると気づいた。
日曜日の朝だというのに、公園には早起きの子どもたちが自転車を停めて集っていた。サッカーボールはカゴに入れたままだ。小さなベンチに三人で座ってゲームをしているらしい。
「なーコムギ。イマドキの子って公園に来てもゲームやるんだね」
腕の中の愛犬に小声で話しかければ、早く下ろせとばかりに暴れられた。欲求通りに地に足を付けさせてやる。
近頃暑かったのもあって、普段は朝の散歩なんて行かない。それでもコムギを連れてきたのは不審者対策である。狭い公園で成人男性が一人佇んでいたら、子どもに通報されてしまうかもしれないから。
ふんふんと機嫌よく探索を始めたコムギに手を引かれるまま歩く。秋にしては日差しが強い。でも風は案外カラっと乾いて気持ちいい。何かの木の枝が揺れている。爽やかだった。
公園内を二周したところで、不意にコムギが芝の上に腰を下ろした。
「あー! ちょっと。おまえ自由すぎ」
裕大はなんとかリードを引いてブランコの横に移動させた。コムギが座るなら裕大だって座りたい。リードを短くしてブランコに腰掛けた。イスとしてはちょっと小さい。本当はベンチがいいけれど、子どもたちの対戦は白熱しているらしく、ちっとも動く気配がなかった。
声変わり前のキャッキャした声をBGMに伸びをする。なんだかおじいさんになった気分だった。
「コムギ気分」
名前を呼ばれたと思ったのか、コムギがこちらを向く。気まぐれにスマホを出して写真を撮った。カシャリ。子どもたちの視線を一瞬だけ感じる。
「さー、コムギ。帰るぞお」
裕大はわざとらしく呟き、慌ててコムギに手を伸ばした。マジで不審者に間違われるのは勘弁! 不服そうに身じろぐコムギを抱えて公園を出た。
「なんか結構楽しかったわ。コムギ、ありがとな」
コムギは分かっているのかいないのか、何度かまばたきをする。やがて家がある通りに出ると、コムギはまた不服そうな顔に戻った。やはり遊び足りなかったか。
「またあとで散歩行く?」
そう問えば、腕の中でしっぽが旋回した。コムギもそのうち本当におじいさんになって、散歩も行かなくなるかもしれない。少なくとも、裕大がおじいさんになる頃コムギはいない。そう思ったら、肌に触れる温かさが一層愛おしくなってしまった。
「またあとでな」
コムギからの「今! 今すぐ!」という熱烈な視線を撫でてなだめる。夕方も公園に行こうかなあ。裕大はぼんやりと考えた。今度は自分の都合じゃなくて、コムギのために。
しっぽの旋回は止まらない。やわらかな毛が腕を撫でて、くすぐったかった。
今週はかやの夏芽のターンでした。
(烏龍水さんを抜かしてしまってすみません💦)
次回もお楽しみに!