ダイヤモンド/烏龍水
たった1粒。それだけである。
凝り固まった首を回しただけの目線が止まったものは、1000年の星の光だと思った。それが、あの男のピアスだとはこの瞬間には考えつかなかったのである。
時は成人式。
絢爛豪華な振袖に、一張羅のスーツ、傾奇者めいた羽織袴。居るだけで脳みそがそのコラージュに形作られそうな会場に、私も叔母のお下がりを着ていた。読者モデルをやっていた顔に負けない真っ赤な振袖に黒に金糸の蝶が描かれたそれは、私の丈には合わず、仕立て直されていた。25年も仕舞われていたそれは樟脳の香りがひどく、頭が痛くなっていた。
市が開催するこの成人式には、ここを地元とする若者が集い、5、6年は会っていなかった同級生たちと再会を果たした。それぞれ変わっており、子連れで来ていた者もいた。なんとも、奇妙な感覚だが、納得はしなくてはいけない年齢なのだ。だが、後ろの席の男たちはうるさい。授業中のちょっかいを思い出させる。それを不機嫌に注意する女もうるさい。学級委員長ぶるな。仕立て直されたはずの振袖も硬く重く、パイプ椅子に座りづらい。ただ、お偉い方々の話を聞くのも辛い。人と成るには、こんな儀式が必要なのか。喧騒が頭に響く。耐えられんとばかりに首を回した、ちょうど180度回したところである。故郷の山間に見える薄明を覚えた。そんなはずはない。ここは市営のホール内である。だが、その光は小さいながらも、しかと私の目を射止めたのだ。喧騒と和洋折衷がごちゃ混ぜの中、しかと煌めく石は、ある人の耳朶を飾っていた。
ダイヤモンド。
地上で最も硬い鉱石。
4月の誕生石。
じくじくする頭が叩き出した言葉が並ぶ。
その人がなんのきっかけもなしに、私の方を向いた。我が初恋の敗れしその男は、あの時と変わらぬ目をしていた。
目線を明後日の方向に逸らした。あの1000年の光に、目を灼かれた気分だ。頭痛はどこかへ吹っ飛んだが、今度は腹が痛む。
ああ、好みの男になってやがる。
青いまま落ちた気持ちがまだ腐ってなかったのか。樟脳より酷い気分にさせる。
これ以上、無様を晒したくなかった。
私はこの後の同窓会は欠席したのだった。