透き通る翼の天使/烏龍水

 天使の翼というものは、昔、カラフルなものだったらしい。黒の筋が入っていたり、青みがかっていたり、黄色に赤の差し色がはいっていたり。某ファミリーレストランの天井に描かれた宗教画にも確認できるので、是非。
現在では、天使の翼の色はどうも白の認識が強い。どうしてかは知らないが、時代によって天使の翼というものは、変わっていくのかもしれない。
「そうなると、トムちゃんも天使しゃんかもしれないでちゅね〜。」
猫撫で声の私は、横に寝そべる白いチワワの腹を揉む。チワワは呆れた視線すらよこさない。もはや、飼い主の奇言には慣れてしまっているのだ。賢いのか、哀れなのか。
「ここに、見えてないだけで、実は生えてるでしょ?羽根。」
背中の肉を軽く摘む。もちろん、そんな手応えはないが、チワワは「いや、ちょっとその触り方、好みではないんですよね。」みたいな顔をして、立ち上がってしまった。
「こんだけ可愛いんだから、天が与えた唯一無二、いや、完璧にして究極の生命体。もはや、銀河系で…。」
「うるせぇな。」
洗濯物を抱えた母に蹴飛ばされながら、私はチワワに向かって語彙の限りの賛辞を吐き、床を這う。それを横目に、犬は前足を伸ばす。そのピンとした尻尾が揺らした空気が顔に当たり、ムチムチの背中に広げた小さい翼の幻想を起こした。
「あ〜待って〜飛んでいかないでぇ。」
「邪魔だよ。」
人間の手が空を切る。チワワは、熊のぬいぐるみを咥えると、くちゃくちゃと噛むのであった。

いいなと思ったら応援しよう!