気だるさに程よく/かやの夏芽

 ああ、どうしようかなあ。結実は赤信号を目の前にして、急に足が重くなってしまった。
 アパートから駅までの十五分を、七分くらい歩いてきたところだ。ここから駅に行くにも戻るにも七分。今このタイミングで、急に、「どうしようかなあ」と思ってしまった。
 曇り空の土曜日はどうにも気だるくて。狭いワンルームでごろごろしてるのも退屈で。だったらちょっと外に出るか、なんて。用事のない外出だ。買い出しは水曜に済ませちゃったから、買いたい物もない。買い忘れもない。ついでに言うと、一般的な大学生の例に漏れず、今月は実際そこそこお金もない。
 定期があるとはいえ、外に出た結実が一円も使わずに散歩だけで済ませられるはずもなく。遅めの朝ごはんの消化が終わって、ちょうどお腹も空いてきている。今すでにちょっと駅前のジェラート屋さんに寄りたいもんなあ。
 どうしよう、という気持ちが、ジェラートに向かってぐらりと傾いた。
 ジェラート屋さんか。フム、と思い当たったところで、信号が青に変わる。進むべきか、進まざるべきか。二秒考えて、結実は横断歩道を渡った。ずんずんと歩を進め、青いビニール製の屋根を目指す。今月はまだ一度も行っていないからセーフ。謎のルールに基づいて、結実は戸を開けた。
 季節限定のサツマイモとカボチャのジェラートを買い、再び来た道へと進路をとる。
 曇天に紫と黄色を掲げる。うすいグレーによく映えるではないか。流れるようにストーリーズに載せ、溶け始めたツノの先をすくう。つめたい、そして、あまーい。あまーくて、おいしい。
 秋だねえ、と三〇度の外気を切って歩き出す。時折歩道の端に足を止め、ジェラートをすくった。一五分の道のりを倍くらいかけて歩く。気だるい土曜にはちょうどいい外出だ。失った八〇〇円には知らんぷりをして、結実はご機嫌にアスファルトを踏んだ。


お題:揺れる

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