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米澤穂信その8~「さよなら妖精」「王とサーカス」「真実の10メートル手前」
ネタバレしてます
今回は大刀洗万智が登場する作品、「さよなら妖精」「王とサーカス」「真実の10メートル手前」についてです
このうち「さよなら妖精」だけは、10年以上前に読んでまして、当時からこの作品は米澤穂信の他作品と比べて、独特の位置にあると思ってました。
ミステリー要素は薄いし、ふざけてないというか遊んでないというか、ユーモア要素も皆無。ド直球で投げて来た印象です
古典部シリーズはそうでもないのですが、小市民シリーズ、「犬はどこだ」(私これ好きですけど)、「ボトルネック」、「インシテミル」、「儚い羊たちの祝宴」などから作り上げられる米澤穂信のイメージって、なんていうか、イロモノ作家なんですよ(笑)
それが悪いというわけじゃないのですが、妙な偏見を持たれると色々やりにくかったんじゃないでしょうか
けれど「さよなら妖精」一作で、その印象を見事に吹き飛ばし、「創作の幅が広い作家」という位置づけに変わるんです。
この小説が「氷菓」「愚者のエンドロール」に次いで三作目に出版されたことは幸運だったんじゃないかと思います
というか、元々「さよなら妖精」は古典部シリーズに入る予定だったとのことで、ほーたろーが守屋路行の役割を果たすというのがあまり想像できないのですが(どう考えても最後の一言をほーたろーが言うとは思えない)、里志や摩耶花はこれをきっかけに変化(成長)する予定だったのかなと想像してます。千反田えるについては全く分かりません(笑)
折木供恵は、だからサラエヴォに旅行していたんだって、どなたかのブログに書いてあったのを見て、ああそういうことだったのねーと納得しました。どこにでも行っちゃう超人ってことで、冗談でサラエヴォにしたのかと思ってました。
2000年頃だったら、外務省も渡航中止勧告を出してなかったのでしょうか?
で、「王とサーカス」です。大刀洗万智が登場することは知っていて、髪型も含め、いろいろめんどくさい人といった記憶のため、おそるおそる読み始めたのですが、想像していたよりはサバサバとした人間に育っていて、なんかほっとしました
この「王とサーカス」も「真実の10メートル手前」も「報道」をテーマとしているのですが、太刀洗万智は今だったら記者ではなくYouTuberになってるんじゃないでしょうか?
ほぼすべてを自分の裁量で作れるというのは、彼女みたいに意志のある人物にとって何より重要だと思うのです。「何をどこまで書くか書かないか」という自分なりの選択は、結局、依頼主や広告主の思惑をいちいち気にせざるを得ないフリーライターの身分ではかなり厳しいと思うんですよ。
大刀洗万智のYoutubeは登録者数が軽く10万人超えで、大人気になるでしょう
私もnoteを始めて、好きなことを好きなように書けるというのは本当にすごい事だと実感してます(笑)
だからこそ、以下のような話も書けちゃうわけで……
【「正義漢」の謎】
「真実の10メートル手前」に収録されている「正義漢」という短編ですが、
・中央・総武線(黄色い電車)の存在ってどうなってるの?
というのがもう気になって気になって……
『……お客様には大変ご迷惑をおかけしております。ただいま、当駅で発生しました人身事故のため、中央線の運行を見合わせております……』
まずねー、このアナウンス自体がありえないんですよ
そもそも「中央線」というものがはっきりとは存在しません。正式には「中央本線」という名称で、吉祥寺駅を通る中央本線は複々線になっているんです。
片方は主にオレンジ色の電車が走る「中央線快速」という名前で呼ばれることが多く、もう片方は主に黄色の電車が走る「中央・総武線」という名前で呼ばれることが多いです。私は単に「総武線」って呼んでますが
で、この二路線は複々線のため、全く線路の共有がありません(多分)。
ですから、吉祥寺駅の四番線ホームで人身事故が起きたとしても、一番線と二番線を走る黄色い電車にはほとんど影響がないとみられ、黄色い電車は安全確認のため一時的に止まるにせよ、すぐに運行を再開したと思われるんです。
これが、三番線ホームで人身事故が起きたというのなら、隣接している黄色い電車も止まらざるを得なくなった可能性は高まったのですが
というわけで、アナウンスとして正しいのは「中央線快速および中央・総武線ともに運行を見合わせている」あるいは「中央線快速は運行を見合わせているけれど、中央・総武線は平常運転を行っている(徐行運転している等)」のどちらかになるでしょう
他のエリアならともかく、中央本線複々線区間内で、「中央線」とだけアナウンスすることは、駅員が慌てていたのでない限り、非常に考えにくい行為です。
これだけでは黄色い電車も止まっているのか黄色い電車の方は動いているのか判別できないからです
で、中央・総武線(黄色い電車)が動いていた場合、何が変わってくるかというと、大刀洗万智は杉並に住んでいるので(「恋累心中」より)、すんなり自宅に帰れたと思われる点です。杉並区の駅は、高円寺、阿佐ヶ谷、荻窪、西荻窪の四駅ですが、どれも吉祥寺駅から新宿方面です。複々線区間のため中央・総武線(黄色い電車)も停車しますから、大刀洗万智の帰宅になんの問題もないんです。
仮に、中央・総武線(黄色い電車)も同時に止まっていたとしても、井の頭線は動いていたわけですから、運行再開後に新宿方面行きがそこまで混むというのも考えにくいし、三鷹行きはもっと混まないでしょう。黄色い電車の終点三鷹は吉祥寺の隣の駅ですから。
つまり黄色い電車のホームが激混みというのはちょっと考えられないんです
ただ、同行していた守屋路行(?)はおそらく立川八王子方面に向かう予定だったので、彼の場合はオレンジ色の電車のホームが空くのを待つしかなかったんでしょうね
もちろん、彼らは物語の都合上、喫茶店で会話する必要があったというのはわかるのですが、喫茶店に寄る理由がね…………
まあ、北海道や沖縄に住んでいる読者にとっては、オレンジだの黄色だの言われても理解できない方が多いでしょうから、わかりやすさを優先して黄色い電車の存在を消して、まとめて「中央線」ってことにしちゃったということなのでしょう。
ただ、どうして三番線ホームで人身事故が起こったことにしなかったのかは不思議です。そのほうが、黄色い電車も止まったんだろうってことで、まだ受け入れやすかったと思うんですよね
以上、「揚げ足取り」の例を書いたつもりだったんですけど、実際に書いてみたら、鉄オタの熱心な批判っぽくなっちゃいましたね。これでは、まるで、ほーたろーのさるかに合戦の感想文よりはるかに真面目に批判しているように見えちゃうじゃないですか!
「揚げ足取り」って加減が難しい……