米澤穂信その2~「追想五断章」他
ネタバレしてます
まずは「追想五断章」です。この作品は未読でしたが、以前購入していたようで、私の蔵書にあったので、これを真っ先に読んでみることにしました
オチはけっこう早く想像できてしまうんですよ、クリスティの「五匹の子豚」でほんの少し似た感じの部分がありますし
ただ、オチでびっくりさせるような話でもないので、オチがわかったところでどうでもいいというか、読み進めてみると、いや、そういうわけじゃないのかもしれないと思わせるいやらしさもあるんですよ。ここがなければ米澤穂信らしくないのですが、だからと言って、そこが面白いかと言われると、う~ん……
なんでこんな優秀な学生が大学を休まないといけないのだろう?解決策はなかったの?とそっちの謎のほうに気を取られてしまい、読んでいる間、ずっとそのことばかり考え続けてました。
国立だったら大学によって基準は違うけど、困窮家庭には学費全額もしくは半額免除する制度もあるし、私立だとしても、文系なんだし、奨学金とアルバイトでなんとか賄えるのでは?
伯父さんの家が都内にあるんだから、下宿だけさせてもらって、儲かるとはとても思えない古本屋でバイトするより、他にもっと割のいいバイトを探したほうがお金を稼ぐという点では断然望ましいはず。若く賢い男性なんだからバブル崩壊後とはいえ、それなりのバイト先はあるでしょう
父親が生きているのならともかく、死んでしまったのだから、治療費を捻出する必要もないだろうし、自営業なので額は少ないでしょうが、母親は遺族年金も貰えるでしょう(←訂正:寡婦年金は妻が60歳以上からみたいなので、無理そうです。自営業は厳しいですね)
という台詞から考えて、借金があるわけでもなさそうです。
たかだか数十万円の単発バイトで、このような楽観的な見通しを語れるくらいなんだから、多分、本当に学費だけの問題なのでしょう
だったら、なんとかなりそうなものですが……
それとも、もしや学費より、あの依存心の塊のような母親が真の理由なの?
いまいち、大学休学問題の核心がわからない……
前途ある有望な青年が大学を諦めるという話じゃなければ、私もストーリー上の都合ってことで、適当に読み流せたと思うのですが……
レビューを読んでも、この点に言及してる人っていなかったので、皆さん大して気にならないようです(当たり前か)。
知人にこの件を語ったら、「私だったら絶対気になる」と言っていたので、同類は一人いましたが……。
もっとも、彼女は国立大で学費全額免除だったので、気になるのは無理もないでしょう。私大ははなから眼中になく、学費が免除になるというその一点で、国立しか受けなかったという見上げた根性の持ち主です
「リカーシブル」(米澤穂信)の主人公も、父親のせいで一気に転落人生を歩むのですが、この子もまだ中学一年生女子だというのに、惚れ惚れするほどたくましいんですよ。今後の彼女の当面の生活を思うと、もう辛くなるばかりなのですが、この少女だったら、ちょっと学習すれば、非情な祖父母に対する金銭援助要求や、市役所の職員にかけあって生活保護をもぎとることくらいやりそうです。たとえ高校に行けなくても、高卒認定試験に通って、バイトしながら大学だって行けそうだし、彼女の将来には正直何の不安も感じません。自分を捨てた父親に対して
といったように、冷静に状況を分析し、決して感情的にならず、相手を責めることもせず、神様に頼ることもなく、ただ諦めとともに現実を受け入れ、それでも生きることへの強い執着を見せる、実に魅力的な少女なんです
一方、「追想五断章」の男子大学生の弱弱しさと言ったら……
もちろん、似たような主人公ばっかりだと面白くないし、バリエーションの豊かさが米澤穂信の魅力なんですが、もうちょっとなんとかならなかったの?とは思ってしまいます
「折れた竜骨」(米澤穂信)も大好きな作品なのですが、ここでも、主人公の少女は強く賢く、一方その兄は……といった感じで、まあ探偵とその弟子(どっちも男性)が異常なほど優秀なので、男女のバランスを取った結果なのかもしれませんが、私が読んだ範囲内で、米澤作品で主要人物の女性が弱いタイプって読んだことないような……?
ということで、千反田える(古典部シリーズ)には期待してしまうところです(笑)