ビデオBOXでパチンコ屋が開くまで待機しながら書いた江戸川のおじさんの話
午前9時ボートレース江戸川の真ん前のローソンでタバコに火をつけようとした時だった。買ったばかりのライターがなかなか火がつかないので、見かねた隣でタバコを吸っていたおじさんが火をくれた。「ありがとうございます」とライターを拝借し、火をつけた。ガス満タンのライターは火柱を上げて、少し人差し指にかかりそうだった。
おじさんはTHEおじさんという風貌し、飛び出た腹と、白髪の髭をたくわえていた。目は黄色になっており、充血し、歯はよく確認できなかった。タバコを一本吸い終わると、「競艇かい?」と話しかけてきた。ここで話を終わらすために、いや、これから仕事ですと気を利かせれば良かったのだが、ライターを貸してもらった手前少し会話に付き合おうと思った。「ボートレース 」を「競艇」というあたり、年期を感じるが、とりあえず、江戸川は難しいですねーと東京支部が強いですねーとか、風が強くて安定版つきますねーとか、適当に話にリアクションした。たびたび出てくる自慢にも相槌を打って、持ち前の他人行儀ではあるが、人を気持ちよくさせることに注視した会話を続けた。
知らない人間との会話は苦手ではあるが、バカを演じるのは得意だ。「買ったらソープ負けたらピンサロ行きますよ」とおじさんが喜びそうなワードを散りばめて言うと、おじさんはウケていた。そして自分の半生を語り出した。しまった。またやってしまった。そんな意図はなかった。太鼓持ちや冗談の設定をおじさんに合わせすぎた。僕がよくやるミスだ。自分では意図していないのだが、マインドはおじさんに近いものがあるため、すぐに話をうまいこと合わせてしまう。おじさんのトークから安定版が外れてしまった。結局、俺は吉原に住んでいたとか、後輩と西日本の他場に遠征しているとか、様々な話を聞くはめになった。これだけで朝から30分だ。まじでついていない。
話が終わって、僕が真っ先に思ったことは、「ああ今日も負けたな」ということだった。朝からこんなついていないのに、勝てるわけがなかった。「ボートレース江戸川」の開場は朝の10時からなので、だいたい開場するまでは、1階の「ボートレース365」に行くと相場が決まっている。モーニングレースを適当に買い漁ろうとした時だった。さっきのおじさんが喫煙所に見えた。むしろ、喫煙所からは「ボートレース 365」がまる見えだったので窓ガラス越しに感動の再会をした。完全に目が合った。おじさんはうっとりしていた。
ニューハーフもののAVまでは見れるが、僕は「ホモ」ではない。
おじさんは、鳴門の5レースが怪しいんだよな〜と一緒に行動をしだした。展示とオッズを見せてきて、1が飛ぶ可能性があると、具体的資料を提示して、ゴリ押してきた。まるで某ショッピング番組のようだ。今日はマジでついていない。案の定、鳴門5レースをおじさんのいう通りに購入し、かすりもせずに外れた。
この日、僕は江戸川3レースまでに2万負けて、すぐに北千住のピンサ○に逃げ込んだ。
ライターを借りた時から運命は決まっていた。運命からは逃れられない。転がる石のように。
負けることは決まっていたのだ。それは、AVのインタビューのシーンは音量が低いけどセック○のシーンの音量がバカでかいくらい当たり前のことだ。だから、ビデオボックスでは他人の迷惑を考えて,音量6ぐらいをお勧めします。