星を射つ確率
深夜2時の天文台にフミとミサ。フミは猟銃を持ち、ミサの手には一眼レフカメラ、望遠鏡まであと数メートル。終わりが近い。
始まりはそう、西暦2038年カメラからビームが出るようになった。突然に。
決定的だったのは2年前にサッカー世界大会で決勝ゴールを決めた時だった。無数のカメラがその選手に向けられた瞬間、彼にビームが突き刺さって斃れる様を全世界が目撃した。スマホもビデオカメラも全てが武器になった。なんでも記録に残せる時代は終わったのだった。
西暦2040年長野県山中、小さなミサは息を潜めてうつ伏せになっていた。腕の長さもある化け物めいた白いレンズが取り付けられたカメラを構えて。目線の先には大きな鹿。焦ってはいけない、数日かけてたどり着いたんだ、もう失敗はしたくない。完璧な瞬間が来るのを待つんだ、落ち着いて。
鹿がこちらを向いた。
「今だ……!」
息を止め、精神をフラットに、気配を消す。そうして被写体を確実に納めピントを合わせ祈るようにシャッターを切る。すると、シャッター音が鳴り止むよりも速く昼間のような明るさのビームが飛び出して鹿の脳天を穿った。
「今回もダメだぁ〜〜!あ〜〜〜〜〜」
ミサは項垂れながら地面に大の字で転がる。
サッカーの悲劇後判明したことだ。1.レンズの性能によって照射距離と威力が決まる。2.ビームが出るのは80%の確率。3.ビームが出た場合はカメラに画像は記録されない。4.カメラマンという職業は無くなった。
ミサは写真を諦められない。
続く
この小説は冒頭800文字で競い合うコンテスト、逆噴射小説大賞2023に応募した作品です。