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夜に質量・明日はパフェ
いつかしら夜に質量がつき始めた、正確には夜の闇に水中と同程度の抵抗とささやかな浮力がついた。何をするにも昼の倍の労力が必要になり、夜に静けさが戻るも束の間。今や細路ですら人工の光で満たされる。
夜はサングラスが必須になった、それだけだ。
夜の闇は排除されたのだった。
「今日勝ったらパフェ、勝ったらパフェ…」雑踏をすり抜けながら黒色のジャージを着た女子が真夜中に光溢れる街中を進んでいた。 表情は硬い。
「最新式の暗視ゴーグルを買ったし、ボールもフィンもピカピカに磨いてきた、大丈夫完璧。イッチーとの空中連携も完璧、イケる。」
その1時間後、イチカは警察署に居る。
今頃はシャドーボールの決勝戦だったはずだ。最高に盛り上がるはずだった、盛り上がりすぎたのだ。夜の闇でも隠せないほどに。
「最悪…」
シャドーボールとは夜の浮力を利用して飛び回るスポーツだ、そして、その浮力と抵抗は光に照らされると消える、落下、つまり危険なのだ、危険すぎて公的には禁止をされている。大人が禁止する危険なゲーム。そこが子供たちの心をくすぐった。
決勝の舞台に立った瞬間のイチカは最高だった、なのに今は無機質なつまらない部屋に押し込められている。理不尽だ。部屋を埋め尽くす真っ白いLED光すらムカつく。
「平川一果さん、平川一果さん保護者の方がいらっしゃいましたよ」
「はぁーい」
呼び出され、のっそりと部屋を出る。この後はひたすらお説教でその後数ヶ月は監視が厳しくなって、それでつまんない日が続くのだ。
「こんばんは」知らないハスキーボイス。ママの声じゃない。
目の前に視線をやると真っ赤なサングラスをした知らない大人がイチカを出迎えていた。
「迎えに来たわ、イチカちゃん」
【続く】