きょうも冥界に行ってもどりて
行った事がない場所へ赴くは冥界へ向かうと似る。知らない景色、見知らぬ建物、方角すら不明瞭。地図は当てにならない。それなのにおれの知らない生活が営まれている。概知の道に出た時の安堵感がたまらない。馴染みの店でナポリタンを食してようやく生を実感する。そしてまた、冥界へと向かう。
今日も田崎は帰れない。致命的な方向音痴なのだ。
今日の目印はカンカンに熱せられたタコ型遊具で。最高気温40度、幾度となく熱中症警戒の市内放送がこだまする。アイスでも買いに行きたいが、元の場所に戻れる自信はない。友が迎えにくるまで推定10分。
一年前、世界中の衛星が落ちたあの日。姉は音信不通になった。承認欲求と自己顕示欲の塊が意味不明なメールを最後に何の音沙汰もよこさなくなった。それは異常で脅威だった。
どこかもわからない祠を探す。あの世かこの世か定かではない、知らぬ景色の先にある答えを信じるしかない。そうして今日も田崎は帰れない。タコ型滑り台の下でじっとり濡れたシャツを絞る。
「田崎ーーー!」
軽トラから大声を出すのは毎回毎回道に迷ったおれを迎えに来る奇特な奴だ。そして、友はあの日死んだはずだった。
車内の冷房を極限まで下げて一息つく。
「それで、手がかりは見つかったのか?」
「まだだ、あそこに見える木にはここから行けない、道がない」
「あるぞ」
友は紙の地図を指し示す。友が言うのならそうなのだろう。納得はいかないがきちんとたどり着くのだ、しょうがない。出発をしてすぐコンビニを数軒発見案外近くにあったようだ。アイスを買う為に友に声をかけようとした、が、見知った顔を見た。知らぬ場所であればひどく安心できた筈だった。
6年前に往生したヨネ婆が真っ赤なカートを押していた。
【続く】