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可愛いと切ないは近いところにある
「女の子が可愛く描けたら作家人生は10年伸びるよ」
以前、描いた作品を見て貰ったときに言われた言葉だ
つまり、これは「あなたの描く女性は可愛くないし、魅力的ではない」ということを表している
そんな訳で作家ですらなかった私は平面で活躍している「可愛い女性像」というものを暫く調べてみた訳だけど、どうやら自分の思う可愛い女性は「元気」とか「明るい」とはかけ離れていた
どちらかというと、アンニュイで物憂げな雰囲気のある人物像に惹かれる
もっと言うと翳りはあるが暗くはなく、掴みどころないような女性像に惹かれる
昨日、東郷青児の『望郷』を観る機会があって初めて「あ、これは好きな雰囲気だな」と思った
見るのは初めてじゃなかった
昨日訪れた場所は何度か来ていたし、東郷青児の代表作だったから出版物やネットでも何度も見かけたことがあった
なぜだか年代的に有り得ないのに、初めてこの作品を見たときには、単純化された造形とグラデーションの付け方でCGで描かれたと思っていた
「これは好きだな」と思ったのでじっくり、なるべく、近いところで、表面のテクスチャをなぞるように眺めると確かに油彩で描いてある
きっと絵の具を薄く薄く溶かして何度か重ねたんだと思う
手描きだと分かった途端に、キャンバスに筆を置かれている場面を想像する
キャンバスの目の前の椅子に座り、油絵の具を何度も溶かして、手に筆を持った東郷青児が何十年も前にここにいたんだ、と想像する
表現したい一瞬を永遠にこの中に納めるために、目の前の彼女のように、完成まで何度も東郷青児も思案したんだろうか、と考えるだけで単純だけど、途端に胸が熱くなる
東郷青児は歴史の人物だけど、実際に私と同じ人間が描いた作品なんだ
急にそこから出てきた訳じゃない
何年も、何十年も、大切にされて、今、私がこの作品を観ているんだと改めて思う
青みががかったグレーの画面に浮き上がる女性の肌だけが、人間らしさと肌の温かさを強調している
女性は俯き、思案に耽って、こちらを振り向いてはくれない
俯いて「心、ここにあらず」という雰囲気の絵は中原淳一や林静一が元々好きなので、小梅ちゃんのパッケージを見る度に思わずうっとりしてしまう 毎回だ
今はネットで調べれば誰が描いたのかすぐに教えてくれる
あの振り向いてくれない横顔に「可愛い」以外に「切ない」という気持ちを覚えた人は他の林静一の作品も見ているんじゃないかと思う
彼の描く女性はいつも誰かを想ってこちらを向いてくれない
アンニュイな雰囲気は、どこか神秘的な要素も相まって胸がきゅっとなるような感覚がある
そこに「可愛い」という感情の名前を与えることはなんだか違う気もするけれど、その度に心が動いてしまうのだから、もう、しょうがない