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定番のVictorスタジオリファレンス ― HA-MX100V

 長年愛されるモデルには理由がある。Victor HA-MX100Vもそんなロングセラーモデルの一つだ。最近発売されたモデルではあるが、HA-MX100-Zのリニューアルモデルである。今回はスタジオモニターヘッドホンの傑作機に列するこの機種の魅力に迫ろう。本村英一がお届けする。

リニューアルの要点

 まずは、本機がHA-MX100-Zのリニューアルモデルであると述べたので、その点について語ろう。2018年にJVCケンウッドはブランド戦略を変更した。音響製品の中でとくにJVCケンウッド自身がこだわりを持っている製品群について、往年のVictorブランドを復活させて付与することとしたのだ。HA-MX100-Zもモニターヘッドホンのこだわりモデルとして、見事Victorブランドに包含されることとなったというのがリニューアルの主な経緯だ。これに伴って伝統のニッパー犬ブランドロゴが施されるなど、外観面の変更が為されている。

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ビクタースタジオとの協働

 以上の経緯から実質的にMX-100-Zと変わらないという本機だが、このモニターヘッドホンの開発にはビクタースタジオのエンジニアが積極的に関わっている。エンジニアの要望を元にJVCの開発陣が音作りを丁寧に組み上げたという。

外観

 Victor HA-MX100Vの外観は業務用スタジオモニターらしい、精悍で引き締まったデザインを基調としている。派手さはないが、使い勝手に配慮した機能美が見える。左右が分かりやすく配色されたハウジング、快適性が考慮された厚みのあるヘッドバンド、よく回転し片耳モニタリングも可能にする柔軟動作のイヤーカップ。スタジオモニタリングの現場で鍛え上げられたそのデザインは武骨でありながら、音響機器としての自然な美しさを湛えている。名機の風格である。
 ケーブルもしなやかで取り回しが良く、金属製コネクタの質感はソリッドで、プロ仕様らしい耐久性への配慮が見て取れる。長く使えるヘッドホンだ。

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音質

 さて、サウンドを聴いてみよう。HA-MX100Vはスタジオモニターらしい少し広い箱庭感のある音場を実現している。
 各ラインの音が整然と並ぶ奥行き感のある空間表現はレコーディングスタジオの現場に忠実だ。一方で聞き疲れ感にも配慮が見られ、音像の明瞭性は高いが、音の輪郭はしなやかで耳に刺さることがない。やや広めの空間に各音像をやや大きめに拡張して聴かせる。HA-MX100Vを聴けばすぐに、音量を上下させてもぶれないフォーカス感を確認できる。そして、そのサウンドテーマが音像の一貫性にあることに気づくのだ。レコーディングの現場に即したエンジニアサウンドといえよう。

 エンジニア的というまとめ方を一旦はしたが、しかし、それは無機質なサウンドではない。むしろ優れて音楽的だ。
 ボーカルを聴けば、生気の篭もったサウンドは格別だ。音響構造的にボーカルをしっかりとフレームの中心に捉えていることはもちろんだが、それだけではない。声のニュアンスが感じられる中高域がわずかにのびやかで艶やかに映える調整となっており、自然とフォーカスされる。
 ボーカルはしっかりと浮き上がって前面に提示されるようになっており、楽器音との間に定位の確かなセパレートが存在している。音楽はボーカルを中心に、ナチュラルな質感を保ったまま、定位は拡張され、音場に余裕が感じられ、聴き心地が非常に良い。どれだけ長く聴いても聞き疲れることはない。この聴感の快適性も長時間録音と向き合うスタジオの実情に合っている。
 ひとつひとつ音質のポイントを確認していると、ビクタースタジオがこのヘッドホンの音を求めた理由がわかる。そして、同じような感性を持つオーディオファンにも訴求力があるだろう。正直に告白すれば、私も魅了されてしまったひとりで、普段から長時間のリスニングには必ずこれを使うほどのファンだ。

まとめ

 Victor HA-MX100Vはレコーディングエンジニアの要求を高度に満たすことが出来る秀逸なモニターモデルである。そして、レコーディングエンジニアを満足させるそのサウンドと使い勝手は同じく長時間音楽を愛するオーディオファンにとっても理想的なアイテムの一つであることは間違いない。是非このサウンドを聴いてみて欲しい。
 ONZOのサービスを利用すれば、このヘッドホンを簡単にレンタルできる。家庭でじっくりと味わうことが出来るだろう。