ソジャーナ・トゥルース 3住まい
奴隷制を擁護する意見として、「黒人は自活できないのだから、私たちが庇護して衣食住を保証してやっている。そっちのほうがずっと幸せなはず」というものがありました。「不法移民は好きで先進国にやってきて金を稼いでいるんだから、権利や安全を保障する必要はない」にちょっと似ています。
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イザベラの記憶で一番古いものの一つに、チャールズ・ アーディンバーグの新居への引っ越しがある。チャールズは父親の死後すぐにホテルを建て、そこに移り住んだ。ホテルの地下室が奴隷に割り当てられ、氏の奴隷は全員が男女の別なく同じ地下室で雑魚寝をした(奴隷にはよくあることだった)。イザベラはいまだにこの暗澹たる部屋のことをはっきりと覚えている。
明かりといえば小さな窓ガラスからもれてくる光だけ。しかも直射日光ではなく、まわりの建物から反射したぼんやりとした日差しばかりだった。床板はすき間だらけで、下のでこぼこした地面がのぞいていた。地面はしょっちゅう水がたまってドロドロになり、泥水が床板に達した。床に飛び散る泥は不愉快なだけでなく、冷たい瘴気で奴隷の命をおびやかした。イザベラは今でも当時の暮らしを思い出してはゾッとする。奴隷は老若男女が一様に、じめじめした床板で馬のように藁と毛布を敷いて寝ていた。多くの奴隷が年を取るとリューマチや疱疹や麻痺に苦しみ、手足が曲がってさまざまな体の不調を訴えたのは無理もないことだった。
イザベラはこの劣悪な待遇がーーもちろんそれが劣悪であることに疑問の余地はないがーー他者の健康や安らぎに対する無関心から来ているとは思わない。それが人間のもっと重要な尊厳や、普遍的な要求を完全に無視しているからだ。その仕打ちは、主人と名乗る人々の心に深く根差す、骨がらみの冷酷さが引き起こすものだ。またそれは、奴隷所有者が代々受け継いだ巨大な矛盾、「奴隷が身も心も自分に服従して当然」と考える習慣から生まれている。身も心も、というのは奴隷が人間であるからだが、奴隷はみずからの魂を押しつぶす制度に属している。その制度はまた、奴隷に残る人間らしさの名残をも完全に踏みにじる。そして、人間の尊厳を奪われた奴隷は家畜と同じか、それ以下とみなされる。彼らは人間らしい暮らしを知らなければ、それを必要ともしないと考えられているのだ。
住まい 了 続く