見出し画像

ソジャーナ・トゥルース 13イザベラの結婚

 イザベラと四人の子をもうけたわりに、影のうすいトーマスさん。結婚しても配偶者が売られたらまた結婚とは、まったくわけがわかりません。産めよ増やせよ、でも一応人間だから結婚はせよ。相手は選べないけど。

________________________________

 この事件のあと、イザベラは同じ家で働くトーマスという奴隷と結婚した。彼はその前に二度結婚していたが、妻の一人ーーひょっとすると二人かもしれないーーは夫から引き離され、遠方に売られていた。彼は妻が売られるやいなや、もう一度結婚することを認められたどころか、おそらく強要されたのだろう。おそらくというのは、それが当時の奴隷保有者の習慣だったと、筆者が個人的な見聞から知っているからだ。

 筆者はそうした家庭で20か月暮らしたことがあるが、その間この悪しき重婚の習慣に異議を唱えるものは一人もいなかった。われわれが強く非難すると、奴隷保有者は口をつぐんだ。奴隷は、今自分たちが置かれた状況ではいた仕方のないことだと弁解するばかりだった。

 そうした恐るべき慣習は、少なくとも奴隷保有者からは沈黙をもって許容されていたーーそれを否定するものなど、一人もいなかった。「アメリカ特有の制度」(訳注:南部で奴隷制を指すのに使われた比喩表現)が抱えるすべてのものを、暗黙の了解をもって許す宗教とは、一体なにものだろうか? この魂を抹殺する、重婚というシステムーー牧師や教会と同じくらいアメリカの宗教に認められている制度ーー、これよりもイエスの教えに真っ向から反対するものがあったら、ぜひとも見せて欲しいものである。

 とにかく、イザベラはトマスと結婚式をあげた。といってもあくまでも奴隷の間で行われていた式であって、奴隷の一人が牧師の代わりを務めただけだ。キリスト教の司祭は神の御名のもとにそんな茶番を務めるわけにはいかない。いかなる民法でも認められず、主人の利害や気まぐれでいつでも無効になるような、ウソの結婚だったのだから。

 奴隷保有者は、南部が北部に合併されることになったら大変だという話をするとき、いったい私たちにどんな反応を期待しているのだろうか? 自分たちは自ら邪悪な法律が作りだした乱れた風紀を、じっと静観しているというのに。さらにそのみだらな関係は、奴隷だけでなく、自分たち南部の特権階級にも広がっているというのに。

 私には、奴隷保有者が奴隷の悪徳に注意を払うのは、馬の持ち主が馬の悪い性質に気をつけるのと同程度でしかないように思える。すこぶる無責任な態度だが、彼らがわが身を振り返って反省することはない。

13イザベラの結婚 了 つづく

いいなと思ったら応援しよう!