Nally
26歳の夏、
Irelandの牧場でNallyに会った。
肌がつやつやして、
健康そうな、
馬の女の子。
その家の(人間の)
末っ子、
18歳の女性の、ジョアナが
一人で世話をしている馬だ。
鞍を乗せられて、
ジョアナと駆けている。
ジョアナがいない時のNallyは、
ひろい庭で、
他の馬たちと
草を食んだり、
かゆいところを互いに
口で掻きあったりしていた。
馬たちが
互いの体を、自分の唇を使って
マッサージしあう様子は、
美しかった。
***
ある日、
うちは家の人に頼まれて
馬たちに干し草を届けに行った。
みんな、一囲いにされた電柵の中にいて、
うちが干し草を
フォークで持ち上げて近づくと、
「お、ごはん?ね?ごはんだね?
おおい、みんな、
あつまれぇ!」
というようにみんな集まってきた。
ただ、これはここの馬たちだけかもしれないが、
押し合ったり取り合いしたりはせずに
目の前に干し草が置かれるまで
横並びして
順番待ちしているのが、かわいかった。
そのとき、
Nallyだけ少し離れたところにいて、
干し草には興味なさそうにして
こちらを向いていた
うちは、干し草を持っていって、
Nallyの前にも置いた。
「おたべ」
するとNallyはおだやかに
ゆっくりと首を垂れ、
干し草を
こりゅ、こりゅと
食べ始めた。
まつ毛が長い。
伏せた表情が美しい。
やさしげな目を
ぱちぱちとはじいた。
食事をしているときでも
美しいのって、
うちは馬と白鳥しか知らないな。
かわいいのなら、ねこも、犬もだけど。
***
邪魔しちゃ悪いかも、
と思いつつも、
うちはNallyの首筋に手を触れ、
右手で
マッサージをするみたいに、掻いた。
肌は弾力があって、
結構強めに掻いても
押し返してくる。
なめらかで、
傷つかない。
うちはこの前、
このNallyの背中に乗せてもらったのだ。
ジョアナに手づなをひかれながら、
見ず知らずのうちのことを、
Nallyは
こつこつと、淡々と、
とっことっこ
運んでくれた。
フィールドを回って。
時々立ち止まってしまって、じっと前を見たりして。
ジョアナに「Lazy!!」(なまけもの!!)と笑われたり。
そのあとで
うちを乗せてくれたお礼に
ジョアナが、
Nallyの首筋を掻いているのを見たのだ。
Nallyは気持ちよさそうにして、
唇でジョアナの腕を掻き返していた
***
「あの時はありがとう」と
言うような気持ちで
うちが首筋を掻くと、
Nallyは首をあげて、
掻いてもらうことに専念しだした。
半歩だけ、近づいてきて。
うちは、
「よしよーし。かわいいなあ。」
なんて思いながら、
一所懸命に
Nallyの首筋を掻いた。
気持ちがいいように、
まんべんなく広く、
ちょうどいい強さを探しながら。
すると、
Nallyはピタッと
頬をくっつけてきた。
うちの頬に。
大きくて、あったかくて、
ほんわりとやわらかいものが
頬に触れて、
顔の左側全体と肩を
優しさで包まれたようだった。
「ふふっ。あったかい。」
うちは目を閉じて、
Nallyの体温を感じた。
首を掻かれるのが、よほど気持ち良かったのかな。
ふれあいを愉しんでくれてるの?
やさしいの?
ひょっとして...さみしいの?君も。
だとしたら、一緒だね...
なんて思いながら、
うちは右手では相変わらず
Nallyの首筋をかきかきしていた。
そうやって、
しばらく頬を
くっつけあっていた。
こんな穏やかな、繊細な味のする時間、
今までしらなかった。
人とだってしたことない。
誰かと
言葉を介さずに通じ合うような気持ち、
うちはこの時初めて知ったのかも。
そっと最後に
つよくてなめらかな首筋に
キスをして
「ありがとう」と言い、
うちはNalllyから離れた。
Nallyはそのまま、
すぐ草を食みはじめた。
「ふふ。たくましいね。」
うちは心の中で
たたえた。
さびしさと、やさしさと、
うちがいなくても「生きていける」
たくましさ。
そのすべてを
Nallyは
見せてくれた。
うちも、そんなふうに
人と、動物と、植物と、世界と、
接していきたい
と思った。
「うちもごはんにしよう。」
きびすを返して、
サンドイッチを作りに
キッチンへと向かった。
その日は、Nallyのおかげで、
なんだって
美味しく食べられそうな気がした。
27years old,6.27,Mizuki