記憶の継承と新たな形ー「すみだ向島EXPO2022」よりー
墨田区の曳舟駅から南側に広がる、京島エリアと呼ばれる地域は商店街や長屋、細い路地が残っており、歩くとノスタルジーを感じる。もちろんまちをそぞろ歩くだけでも楽しいのだが、長屋に住みながら創作活動をしている人、お店を営んでいる人などと話しながらめぐるとなお一層まちとのゆかりや繋がりを身近に感じることができる。ということで、すみだ向島エリア全体を知るイベント「すみだ向島EXPO2022」の一環で、ナビゲーター高野さんによるコミュニケーションツアーであちこちをめぐった。
いろいろなテーマにちなんだ場所に共通したのは日常とアートがつながっているように感じられたこと。アートという言葉の語源はラテン語の「アルス」から来ており、「技術」という意味もある。(語源由来辞典よりhttps://gogen-yurai.jp/art/)
出会ったものの数々は元々長屋にあったものや、身近なものをクリエイターたちの技術により、新たに命を吹き込まれている作品の数々に出会えた。
さて、ツアーの中で個人的に印象に残った活動を2つ紹介する。
1.「スミ開き長屋」
1年ほど前から長屋にすみはじめ、リノベーションする中で今まで屋根にたまっていた100年分の埃で絵を描く、赤星りきさんという美大生による展示。彼は「京島共同木工所」として普段から創作活動を行っている。
埃という、最も見つけたら即一掃したくなる存在が、彼の目からは長屋の今までの住人達の暮らしが息づいているものに見えたのだろう。
自身が住んでいる長屋含めて左右隣合っている長屋も含めた絵が、極めて優しい筆致で描かれていた。
白黒の中に、なぜか外の景色の色彩が重なって見えるのがより不思議だ。
2.「考現学 発掘 床下」
もうひとつは明治通りの1本裏にひっそりと佇む大正時代からの長屋が舞台。昔ながらの三和土を上がって右に、ぽっかりとまるで遺跡の発掘現場のように畳や床板が剥がされていた。
主催者の松尾孝之さんによる、長屋が建てられた前の地面や代々の住人の生活を探るプロジェクトだ。例えば写真左側に映っているのは発掘されたものの一部で、手前の瓶はとある住人が飲んだであろう、コカ・コーラの空き瓶とのこと。
この企画のタイトルには「考現学」という言葉が使われている。過去の足跡を辿ることで、令和での暮らし方との共通点が立ち現れてくる、といった意味なのだろうと考える。
コカ・コーラの瓶があったのかあ、と銭湯でミニ瓶しか飲んだことない私は感動したが、当時の住人の食生活とか、何が好きだったか、人によっては更に想像を膨らませてワクワクが広がっているかもしれない。
修繕して使い続けるよりも新しく作る方が効率がいいという見方も確かにある。ただ、それだけではどうしても面白みや温かみに欠けてしまう。人間はひと手間かけて作り替えたりすることで、愛着や自分にとっての根幹となるような想いなどが生み出されてくるような気がする。つくっていくうちに、自分が好きなものはこれだったんだと再発見したり。今回のツアーで、既存のものを再活用して何らかの形に生まれ変わせたり、あるいはものだけではなくてこういったブログなどで思いを発信し繋げていくことのダイナミックさを改めて感じた。