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【第17回】生音を愛する人たちの居場所「ベアズカフェ」25周年を迎え店主まえざわさんの今の想い

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生音の音楽を愛する人が集うお店が大阪は東大阪にある。ベアズカフェという場所だ。オーナーのまえざわけんいちさんは、皆に愛される人物。口コミで広がったそのお店の暖かさの背景には何があるのか。音魂はまえざわさんに独占ロングインタビューをしました。

まずは自己紹介をお願いします

シンガーソングライターとして、日常の景色や想いをガットギターに乗せて歌っています。長尺のライブなどではアコースティックギターに持ち替えたり、ガットギターと使い分けながら演奏しています。
それとは別に、オールディーズのアコースティックバンド「エンジェルバンド」というグループをやっていまして、もともとはハウスバンドとして長年活動していました。現在も年に3~4回程度ライブをやっています。今年でちょうど25年目になります。

ベアズカフェは、アコースティックライブができるカフェとして運営していて、静かな音楽を中心とした空間になっています。自分の音楽活動とエンジェルバンド、そしてお店の運営を並行しながら活動しているまえざわけんいちと申します。

ありがとうございます。ベアズカフェ、周年のイベントも盛況でしたよね。写真を拝見しましたが、お店がすごく愛されている印象でした。まえざわさんの人柄や、お店の雰囲気、集まってくる方々も温かい人が多そうだなと思います。

僕のほうこそ、周りの皆さんに支えられているなと思っています。僕自身、まわりの人たちから学ぶことばかりですね。実はライブバーをやろうなんて恐れ多くて、最初は全然考えていなかったんです。もともと知り合いのバンド「North Hill」という、活動歴50年のバンドさんと、僕たちエンジェルバンドがきっかけでライブを始めたんです。それまでは普通の喫茶店としてやっていたんですけど、「ここなら生音で演奏できるかも」と思って、2マンライブをやってみたら好評で、それが口コミで広まって、他の方からも「やらせてほしい」という声をいただいたんです。

ただ、大きな音は出せないので、ライブハウスのような迫力ある感じではなく、生音を活かしたアットホームなライブが主体です。お客さんとの距離も近いので、やる側としてはむしろ緊張しますけどね。でも、その近さゆえにコミュニケーションを取りやすかったり、ギターの生音がリアルに聞こえたりするので、そういった雰囲気を楽しんでいただいています。お客さんから、「本当に弾いているんだな、と近くで見て初めて思った。生音が聞こえるライブですね」と言われると、こちらも嬉しくなるんですよ。

音楽を始めたきっかけや、まえざわさんのこれまでの道のりを教えていただけますか?

はい。音楽自体は小さいころから好きで、テレビをよく観ていたんです。小学校3~4年生頃に、当時流行っていたゴダイゴツイスト甲斐バンドサザンオールスターズなどのバンドサウンドに憧れたのが最初ですね。兄が部屋でゴダイゴの「ガンダーラ」をかけていて、ちょうどテレビで『西遊記』の主題歌もゴダイゴが担当していて、バンドってカッコいいなと衝撃を受けました。

それで、友達に誘われてゴダイゴのライブを観に行ったとき、運良く前から二列目で見ることができたんです。まだ小学生だった中、爆音のロックライブの迫力に圧倒されて「バンドやりたい!」と思ったんです。でも当時は小学生なので、楽器は弾けないし、あんな速いギターやボーカルは無理だと思っていました。父が1曲だけギターを弾けたのでコードを教わり、明星の雑誌の付録に載っていたコード表を見て、チェッカーズの「星屑のステージ」などゆっくりした曲を1日中練習して覚えました。そこからは、毎日ご飯以外はずっとギター、というような生活でしたね。中学のときに友達が洋楽を教えてくれて、ブライアン・アダムスとか、当時活躍していたアーティストのギタープレイに影響を受けて、ますますギター漬けになりました。

ちょうど80年代〜90年代にかけてハードロックブームがあって、大阪もすごく盛り上がっていました。先輩たちの世代では有山じゅんじさんとかブルース系が根強かったりしましたけど、僕はアースシェイカーに憧れてバンドを組んで心斎橋の小さなライブハウス「Bahama」なんかに出ていました。

若いころはいろいろ苦労しました。バンドが解散してからは、古いR&Bやファンクを演奏するバンドを組んで、オーティス・レディングなどをコピーしました。メンバーが上手い人たちばかりだったので、すごくレベルの高いバンドになったんですが、周りから「上手い」と言われるだけで、もっと感情的な部分を伝えたいと思うようになって、そのバンドも解散してしまいました。

そして新しいバンドを立ち上げたときに集まったのが、今のエンジェルバンドのメンバーです。オールディーズやビートルズを中心に演奏するバンドで、ハウスバンドとして月何回か演奏する機会もあったんですが、それだけでは物足りないと感じ、オリジナル曲をやりたくなって「ワンドロップ」というお店で出演させていただき弾き語りを始めたんです。

そのお店は、出演者に対して厳しめのダメ出しもあるし、アドバイスもしてくれて、出演者を「お客さん」としてではなく「演者」として扱ってくれるお店でした。ほかにも「かつおの遊び場」や、今はなくなった「太陽と月」なども、昔からある愛情あるお店だと思います。ベアズカフェをやるときも、そういうお店の姿勢は学んでいますし大事にしたいと思っています。

その後、ベアズカフェも本格的にライブをやるようになりました。お店が始まった当初はお客さんが少ないので、ライブハウスでバイトしたりしていました。そのお店の社長に尋ねられていた「出演者に何をしてあげればいいか」という姿勢をベアズカフェで貫きたいと思っています。

なるほど。そうやっていろいろな経験を経て、今のベアズカフェの形になっているんですね。では、そのベアズカフェが始まった経緯についてもう少し詳しく教えていただけますか?

もともとコーヒーがすごく好きで喫茶店を始めようと思ったわけではないんです。最初は電気工事の会社をやっていた妻の実家の倉庫を使って、「何かできないかな」という話になったんです。僕自身は昔から音楽はやりたいけど、ライブバーまでは想像していなくて。ただ、バーっぽい雰囲気には憧れていて、廃業するお店の照明やダウンライト、ネオン管などをもらってきて、倉庫を改装したんですよ。

ベアズカフェの壁は、片側がジャズを意識したレンガ調で、反対側はカントリーを意識した壁になっているんです。内装にも思いを詰めたので意識してみてもらうと楽しめるかと思います。

そうやって「いつかはバーをやりたい」という気持ちを抱えながらも、最初は普通の喫茶店としてオープンして、エンジェルバンドの知り合いなどを招いて小さくライブをやったのが始まりです。口コミでどんどん広まっていき、いつの間にか演奏したい方が増えて、「それならちゃんとライブができる環境を整えよう」という流れになりました。

ただ、僕自身が出演者だったこともあって、こちらから積極的に「出演者募集中!」と募集するのはあまりしていなくて、話をいただいたら検討するスタンスを貫いています。

今は配信などもあるので、若い人たちは配信が中心の活動になりがちですよね。でも、生のライブ、弾き語りの良さって絶対あると思うんですよ。音響機材の音じゃなくて、ギターの生音や生声を目の前で聴くのは格別ですし。実際に若いアーティストさんとも交流があるんですか?

そうですね、東京に行った子たちも、SNSでつながって情報交換をしています。またいつかタイミングが合えば出演してもらえればいいなと思っています。

若い子が「今日のライブどうでしたか?」と感想を聞いてくることも多いんですけど、あまりこちらから押しつけがましくアドバイスするのも難しいと思っています。僕が若い頃もそうでしたけど、あまり他人の意見に振り回されすぎると自分らしさを失うので、「一意見としてフィルターを通して受け取ってほしい」という感じですね。

その通りですね。近年、ライブバーやライブハウスの運営は本当に大変だと思います。特にコロナ禍はどうだったんでしょうか? ベアズカフェさんもやはり運営面では苦労があったと思いますが、どのように乗り越えたのですか?

コロナがきっかけで、配信をやってみることになりました。現在はshowroomを毎日配信しています。

無観客で演奏してツイキャス配信するとか、ラジオ配信のように電話でトークだけを流すとか。「透明のビニールを貼って無観客ライブって……どうなんだろう?」と思ったんですが、やってみると意外と応援してくださる方もいて、投げ銭をしてくれる人もいたり。

結果的に、「配信を待っている人」がいるんだなと分かってありがたかったですね。

リアルのお客さんが呼べなくても、配信を観て投げ銭してくださるとか、アーカイブのチケットを事前に買ってくれるとか、本当に支えられました。それまでは、店側としては「お客さんを呼ぶのはお店の役割」という意識が強かったんですけど、配信と組み合わせることで、新しい形でお店や演者を応援してもらえるようになりました。

素晴らしいですね。確かにコロナ禍でライブやイベントは軒並み中止になりましたけど、その中で配信という新しい形を取り入れられたのは大きなターニングポイントだったんですね。では、今後のベアズカフェとしての展望や、壁にぶつかりながらも見えてきた役割などがあれば教えてください。

そうですね。今後は若いアーティストと長くやっているアーティストがお互い刺激し合えるような場にしていきたいです。ベテランの方は若い人から学ぶことがあるし、若い人はベテランの経験に触れることができますから。ジャンルというよりも、音楽に対して前を向いている人同士を引き合わせる場になればと思っています。

例えば、志村けんさんがバカ殿で若手芸人を呼んだり、サザンオールスターズとMr.Childrenが共演したり、ウルフルズが若手バンドと対バンしたりと、そういう「クロスオーバー」が生まれるとファンの中でも交流が生まれるじゃないですか。そういうことをやりたいんです。
ただ、どうしてもお店ごとにカラーや人脈が固まってしまう面があるので、そういう枠を超える仕掛けを作っていきたいですね。

いいですね。ジャンルを超えて、方向性が似たアーティスト同士の出会いがあると、新しい化学反応が起こりますよね。実際に、いろいろなライブを見ていて「いいライブだな」と思うアーティストさんって、どんな共通点がありますか?

自分のやりたいことを心から楽しんでいて、「私はこういう音楽をやっています」というのを、そのまま見せてくれる人がいいなと思います。盛り上がる盛り上がらないよりも、そこに「その人らしさ」が出ていて、お客さんがその雰囲気や情景を感じ取れるかどうか。そこが良いライブの分かれ目かなと。もちろんバンドでも弾き語りでも、それぞれ表現の仕方は違うんですけど、結局「本人がどれだけそれを好きか」が伝わってくるライブは、観ているほうも心地いいです。

なるほど。そういうライブは観ている側も引き込まれますよね。では、まえざわさんご自身がこれから挑戦してみたいこと、あるいは継続していきたい思いなどがあれば、教えてください。

やっぱり「歌い続ける」ことですね。ここ最近、特に50歳を過ぎてから感じるのは、時間=命だということ。自分もそうですし、お客さんの時間(命)をもらって演奏させてもらっているんだなとライブ中にすごく感じるようになりました。
だからこそ、その時間を共有できる喜びを大切にしていきたいし、歌わせてもらえることがありがたいと思っています。

あとは、やっぱり自分から無理やり「来てください!」ということはあまりしたくなくて……もちろんSNSで告知することはあるけど、過度なDMとかはしないようにしています。必要な人のところに届けばいいなと。

分かります。送りすぎても負担になるし、本当に自分の音楽が好きで聴きたいと思ってくれる人に届くほうがいいですよね。では、ベアズカフェとしては、これから「こんなイベントを企画したい」といった部分はありますか?

今、共同企画として何か大きなことをやろうという話が進んでいます。ただ、まだ具体的な日程は決まっていないので、正式に決まればお知らせしたいと思っています。

あとは、今まで通りマイペースですね(笑)。出演アーティストさんを大事にして、それぞれのお客さんが増えるようにサポートしていきたいです。定期イベントもやりたいんですが、まずは今やっているワンマンやツーマンライブ、配信などをしっかりサポートしていきたいです。是非、一度ベアズカフェに遊びにいらしてくださいね。

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インタビュアー:本城あゆみ

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