三霊泉五名泉投票・完
昭和5年8月4日の新聞より
審査会にて厳選の結果 三霊泉五名泉決定す
参考資料を基礎に数時間審議 得票順に意見一致
既報の如く三霊泉、五名泉審査会は二日午後二時半から本社楼上において開会、出席審査員は
道庁衛生課長木村眞之助氏、札鉄運輸課旅客係長馬場惟保氏、小樽旅行協会々長河原直孝氏、小樽市星野三郎氏及び本社側三名(札鉄運輸課長橋本重太郎氏は病気のため、温泉協会北海道支部評議員酒井隆吉氏は止を得ざる事故のため欠席)
本社平野専務開会の挨拶を述べ池島企画部長より温泉投票の経過並に候補十二温泉の一つ一つにつき詳細なる報告をなしたる後別室に陳列せる十二温泉の写真その他の参考材料の調査を終りいよいよ審査に移り大體
一、交通 二、沿革と特徴 三、温泉旅館数 四、旅館、浴槽等の設備 五、宿泊料、室代、自炊客取扱方法 六、附近名所、遊覧散策地 七、温泉の名産 八、分析表、効能、温度
の八項につき数時間にわたり一々審議した結果、それぞれ一長一短あり、子宝湯、雨宮温泉、及川温泉等は現在の施設においてやや劣るものもあるも子宝湯はすでに旅館の大改築と各種新施設の計画を立て今秋着工の予定であり雨宮温泉もまた帯広町民の要望により現に二ヶ所掘削中で一ヶ所は温泉の噴出を見たので近く二旅館の建設を見るべく大帯広を背景に十勝における大温泉場たらしめんとの意気込みで近き将来において面目一新さるる事が予想されるので現在の施設のみに捉はるべきでないといふ事その他の諸点についてもにはかに優劣を断ずべからざるものがあり大體得票順によりこれを選ぶも差支へなしと意見一致した、又三霊泉、五名泉を順位をつけぬ事とした、即ち審査会において選定された三霊泉、五名泉は左の如くである
三霊泉(得票順)
(洞 爺)洞爺湖温泉
(南尻別)昆布温泉
(銭亀沢)根崎温泉
五名泉(得票順)
(幌 別)カルルス温泉
(豊 富)豊富温泉
(登 別)子宝湯
(音 更)雨宮温泉
(鹿 部)鹿部温泉
なほ選外四温泉中温根湯温泉は以上の五名泉に比して劣らざるものであるが得票の差により選外となれるもの五名泉として表彰しない事は頗る遺憾であるが名温泉としてここに紙上で推賞する次第である
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ついに2ヶ月以上の期間を経て、北海道三霊泉五名泉投票が決着しました!
最後は得票順という事になりましたが、子宝湯や雨宮温泉は将来性を買われての選出という事が書かれています。また、特別枠で温根湯温泉が推賞。
ニセコエリアの7つの温泉をまとめた「昆布温泉」については、その7つのうち現存しているのは紅葉谷・湯本・二世古の3箇所のみ(平成に3つの温泉地がなくなる惨憺たる状態)ですが、ほかの7つの温泉地はその中で紆余曲折ありながら現在も北海道の主要な温泉地となっています。
90年前のこの時代、その少し前に世界恐慌が起きるなど決して恵まれた時代ではなく、さらにこの後戦火に巻き込まれる事で多くの温泉が姿を消しました。それでも、北海道中のあちこちで新たな温泉が生まれ経営にチャレンジしていた活動的な時期だったのではないかと、個人的に感じます。
その活力は得票数の数にも現れているのではないかと。現代の温泉投票で、400万票を集めるようなものはあるでしょうか。全国規模のものでも見つけられませんが、当時北海道だけでこんなに盛り上がったのです。
さて、90年前の北海道三霊泉五名泉の記事はこれで一旦終了となりますが、実はまだ終わっていません。90年前の秋まで時間が空く事になりますが、その後の三霊泉の事を少しだけ別のタイミングで書きたいと思います。