地球のはなし 混じりにくいからよく混じる
京都大学で地球物理学の研究が始まって80年になる。その記念の大会で、恩師が海水の混合について講演をなさった。研究のきっかけとなった観測結果を示されたのだが、その図は、懐かしくも、30年以上も前に、私が修士論文のために描いた図なのであった。
和歌山県の田辺湾で観測した水温の変動を整理して、変動の特徴を探ることが、私に与えられたテーマであった。さまざまなパターンの変動の中でとくに印象的だったのは、ときどき突然ジャンプするように、大きいときには2度以上も、上昇することであった。
ジャンプするのは、湾の外から、温度の高い水の塊が流入してくるためらしいと推定されたのだが、私は修士課程を終えるとすぐ別府に来て、温泉とかかわり合うようになったので、それより先には進めなかった。
この水温ジャンプが、言い換えると海水の塊の移動が、海水の混合現象を解明する鍵になった、ということである。
塊が存在することは、海水は混じりにくいことを意味する。混じりにくいから、塊のままで潮流や海流に乗って遠くまで移動する。だから、海水は広い範囲にわたって混じり合うことができる。
私の修士論文は埋没してしまったが、一見矛盾しているかに見える表題の現象に迫る入り口の役割をしていたことを知って、あれは無駄ではなかったのだと、ちょっと幸せな気分である。
(1999.3.3)
別府温泉地球博物館理事長の由佐悠紀が執筆し、新聞・雑誌などに掲載されたものを順次ご紹介しています。