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地球のはなし 60年ぶりの入学式
長女一家が別府を離れて横浜に移ってから2年が経ち、孫娘が小学校に上がることになった。入学式は別府より1週間早い4月5日、私のスケジュールにあまり抵触しなかったので、見物に出かけた。
当日は、抜けるような青空の快晴であった。晴れ着を着て、母親と手をつないで、スキップしたりしながら学校に向かう新1年生たち。校庭は時おり吹く微風に満開をやや過ぎた桜の花びらが舞い、その下で記念写真が撮られている。絵に描いたような入学式風景であった。
おぼろげな記憶であるが、私の入学式もそんな風であった。毎日の野良仕事で手が荒れて日に焼けた顔の母が、あの日は少し化粧し、紋付の黒い羽織を着て、子供ながら見ほれるような気分になったことも覚えている。ちょうど60年の昔である。
母の生涯の職業は小学校の教師であったが、戦後それに復職するまでの4、5年間、半農半漁の田舎で慣れない野良仕事をしていた、というより、せざるを得なかったのだ。今思うと、30代後半、まだ若かった。貧しく、子供は小さく、先が見えない毎日をどんな気持でいたのか…。入学式を見ながら、そんなことを思い出していた。
式は、校長先生を始めとする方々の話し方が優しく簡潔になったような気がするくらいで、そんなに大きくは変わらないと思った。大変化は、子供たちの顔も服装も美しくなったのは当然として、子供より大人の数が断然多いことである。かく言う私たちも1対3であった。
(2007.5.17)
別府温泉地球博物館理事長の由佐悠紀が執筆し、新聞・雑誌などに掲載されたものを順次ご紹介しています。--