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シニアマイスター 明石淳一

シニアマイスターになるための「温泉に関するレポート」です。

別府温泉における美人の湯      明石 淳一
  ~温泉分析書から見た「美人(美肌)の湯」の分布と特徴~

温泉分析書から見た「美人(美肌)の湯」の分布と特徴

1.はじめに
温泉には、様々な効能があるが、「美肌効果」というのは、療養ではないので適応症と認めらず、それゆえ適応症の欄に書かれていない。しかし、科学的には温泉成分によって、不要な角質をとって肌をつるつるにしたり、メラニンを分解したりする「美肌効果」は認められている。
では、「美人(美肌)の湯」というのは、どのような温泉なのか。一般的に美人の湯と言われる泉質には、炭酸水素塩泉、硫酸塩泉、硫黄泉がある。
炭酸水素塩泉や硫酸塩泉は、皮膚の脂肪を乳化させ洗い流す働きがあり、硫黄泉は、古くなった皮膚の角質を軟らかくして溶かしてしまう働きがある。他に、明ばん泉は肌を引き締めてくれる働きがあるといわれている。
また、pH値で分類するなら、アルカリ性(鉱泉分析法指針では、液性の分類でpH7.5~8.5未満を弱アルカリ性、同じくpH8.5以上をアルカリ性としている)の湯も肌の脂や角質を乳化して流す作用があるので、「美人(美肌)の湯」といわれることが多い。
ほかに、泉質名には現れないが、温泉成分として保湿効果のある「メタケイ酸」が多く入っていると、ぬるっとした肌触りになり美肌効果がある。これは成分分析書の数値を見ればわかる。
さらに、「美人(美肌)の湯」といわれる温泉は、身体の中から美しさを 作りあげると言われている。温泉につかることで、皮膚は刺激を受け活発に呼吸を始め、温泉に含まれる成分を体内に吸収する。それが脳を刺激して体調を整えることになる。身体を芯から温めることで、血液が体のすみずみに行きわたり、体内の老廃物が運び出され、ホルモンのバランスがよくなるとともに、なめらかな肌を作り上げる。
別府八湯の中で、別府温泉には「美人(美肌)の湯」の一つである炭酸水素塩泉が多い、湯巡りで得た温泉分析書の成分データから、その分布状況と特徴について調べることにした。

2.調査の方法
 別府八湯温泉道の対象施設を中心に、25箇所の温泉施設(資料1参照)の温泉分析書から、炭酸水素ナトリウムの成分であるナトリウムイオンと炭酸水素イオンの分量、pH値、メタケイ酸量をグラフ化し、比較する。また、結果をマップ上にプロットし、分布状況を可視化する。

3.調査のまとめ
(1)炭酸水素ナトリウム成分のグラフ化
 <ナトリウムイオン>

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(2) 液性の分類とグラフ化
鉱泉の液性を湧出時のpH値により次のとおり分類する。

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 <pH値>

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(3) メタケイ酸量のグラフ化

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(4) 炭酸水素ナトリウム成分の分布
 <ナトリウムイオン>

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<炭酸水素イオン>

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(5) 液性の分布

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(6) メタケイ酸量の分布

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4.調査の結果と考察
① ナトリウムイオンの分布状況
・図1-1より南北方向で見ると、ナトリウムイオン量は、北部に比べ南部の源泉に少ない傾向がある。
・図1-2より東西方向でで見ると、ナトリウムイオン量は、東部(海側)の源泉に多く、西部(山側)の源泉に少ない傾向が見られる。
・図1-3及び図5より別府タワー付近の源泉にナトリウムイオン量が多い。
(考察)
 ナトリウムイオン量が東部(海岸部)に多いのは、西部(山側)から東部(海側)に高温・高濃度の源温泉水が流れ、低温・低濃度の地下水と混合する間に増えていると考えられる。別府タワー付近の源泉にナトリウムイオン量が多いのは、埋立地のため海水の影響も考えられる。
そこで、海水の主な成分である塩化ナトリウムを構成する塩化物イオン量(図9)を調べると、埋立エリアに多いことが確認できた。
他に、泉温とナトリウムイオン量の関係(図10)を調べると、泉温が高いほどナトリウムイオン量が多い傾向が窺える。

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② 炭酸水素イオンの分布状況

・図2-1より、南北方向の分布に、炭酸水素イオン量は、南部と北部で顕著な特徴は認められない。
・図2-2より、東西方向の分布に、炭酸水素イオン量は、東部(海側)の源泉に多く、西部(山側)の源泉に少ない傾向が見られる。
・図1-3及び図6より、北浜の埋立地、特に別府タワー付近の施設に炭酸水素イオン量が多い源泉が集中している。
(考察)
炭酸水素イオン(HCO3-)は、下記の炭酸ガス(CO2)が水に溶けて炭酸をつくる反応(1)、炭酸が炭酸水素イオンに解離する反応(2)によってつくられる。
 CO2 + H2O → H2CO3 ・・・(1) 
 H2CO3 → H+ + HCO3- ・・・(2)
そこで、遊離二酸化炭素の量(図11)を調べたが、エリアとの関連性は見られなかった。
他に、泉温と炭酸水素イオン量の関係(図11)を調べるたが、泉温と炭酸水素イオン量に相関は見られななかった。
エリアによる炭酸水素イオン量の違いは、地下水が流れる経路(湯脈)が異なることで、流路に沿った部分の炭酸塩鉱物を溶かす量の差ではないかと推察される。

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③ pH値の分布状況
・図3-1より、南北方向で比較すると、北部に比べ南部にpH値の低い源泉が見られる。
・図3-2より、東西方向で見ると、pH値は、東部と西部で顕著な特徴は認められない。
・図3-3及び図7より、北浜の埋立地の施設にpH値の高い源泉が多い。
(考察)
 一般的に水溶液のpH値は温度の影響を受ける。pH値と温度の関係(図12)を調べたが、エリアとの相関性は見られなかった。これは、源泉中の溶質の解離定数や平衡定数が各源泉で異なるためと考えられる。

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④ メタケイ酸量の分布状況
・図4-1より、南北方向で比較すると、北部に比べ南部の源泉にメタケイ酸量が多くなる傾向が見られる。
・図4-2より、東西方向で見ると、メタケイ酸量は、東部と西部で顕著な特徴は認められない。
・図4-3及び図8より、歴史の古い施設にメタケイ酸量の多い源泉が多い。(考察)
 メタケイ酸量が北部と南部で差があるのは、地下水が流れる経路(湯脈)の違いが原因ではないかと考えられる。
他に、泉温とメタケイ酸量の関係(図13)も調べたが、特に相関は見られなかった。

5.おわりに
 別府温泉には多くの温泉施設がある。今回、調査対称とした25箇所の温泉施設は、自家源泉があり温泉分析書に調査項目(ナトリウムイオン・炭酸水素イオン・ph値・メタケイ酸量等)が表記されている条件で選出した。残念ながら、温泉分析書の掲示が確認できなかったり、調査項目の一部表記がなかったため調査対称から除外したりした温泉施設もある。今後、対象施設を増やす必要がある。また、温泉分析書に関しては、調査対象の施設の分析時期がかなり古いものもあり、現在の泉質と異なっている可能性もある。従って調査結果は、あくまでも参考としていただきたい。
 別府温泉を「美人(美肌)の湯」の視点で温泉分析書を見ると、pH値の高さやメタケイ酸の含有量の多さ等その素晴らしさが見えてきた。また、泉質名が炭酸水素塩泉で同じでも、それぞれの源泉に個性があり、温泉の多様性を改めて理解できた。別府温泉を訪れる方々の湯巡りの一助になれば幸である。














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