温泉泉質分析の専門家集団「中央温泉研究所」と入浴剤の研究について
温泉水は生き物 — 中央温泉研究所の役割について
温泉水は、地層や地球の火山活動、地上に上がるまでの流れや微生物の影響により変化する水質を観察する科学者から生き物のように捉えられています。
温泉は、多種多様な種類が存在し、また、生き物のように常に変化しているので、状態を把握し安定的に安全な利用を行うには豊富な経験と専門的な知識が必要です。
医療以外の技術的・科学的な分野は、温泉の化学的・工学的な分析をメインとする研究機関が担っています。
日本は世界一の温泉大国と以前にお話させていただきました。
https://onsendr.com/2019/05/12/world-map/
世界の温泉分布地図 — 火山国・日本とヨーロッパの温泉文化
この記事にあるように宿泊施設を要する温泉地の数は3000を割ってしまい、現在は3000に満たないと言え、世界有数の泉質を持つ温泉を有する日本。
そんな日本でも、泉質の研究が科学的に行われ、分析書が大量に発行されたのは甘露寺泰雄先生をはじめとする泉質研究者の方々による戦後から功績で、温泉利用の歴史からすると、まだまだ、最近の新しい出来事と言えるのではないでしょうか。
民間療法や迷信による研究の遅れを指摘されていた日本温泉療法業界を明るくした泉質研究は温泉療法のベースとして重要視されており、以前ほどではありませんが、今も研究に影響を与えています。
温泉療法医の研修、今と昔
今の時代の医師が新しく温泉療法医になる際には、もう、以前のように温泉水の泉質に関する研修プログラムのタイトルはありません。他の疾病に関する講座の中に吸収合併されてしまっているのでしょうか。
ちーん。
超、不安をそそる、古いサイトが今もささやかに公開されている「中央温泉研究所」が輝かしい一時代を作り、大部分を担っていた頃に温泉療法医になった私としては時代の変化というのは凄まじいものだな、と多少怯えるレベルで、本当にタイトルから温泉水に関する内容は消えてしまっています。
「中央温泉研究所」については、後程、詳しくご説明させていただきますが、学会研究発表でも同じことが言えます。
以下、2015年のインタビューに答える甘露寺泰雄先生の言葉を考え、疑問に思うプログラムではあるわけですが、もう、少なくともタイトルからは消えているわけです。
内容は推し量るしかないものの、近年の傾向について後程、また、記事にさせていただきたいと思います。
もともとの温泉療法・湯治の意味合いは言葉通り、こうだったのです。1)
元気な人をより元気にする、少し体調が悪くなったのを元に戻すという効果が非常に重要なのです。先ほど申し上げた湯治にしても、人びとは温泉地に行き、自分たちで食事をし、談笑しながらお湯に浸かることが多かったわけで、リクリエーションが主体だったのです。
何かを治療するというのは、西洋の最新医療技術に任せていた経緯から江戸時代を最盛期に明治・大正と古き良き時代の温泉による健康法とは上記の通りだったのだと思います。
近頃は、具体的に数値がどうなるか、どの疾病にどのような影響をどれくらいの数値であたえるのかという医学的な研究が重要視されています。
ちなみに、私たちが研修を受けた頃は、中央温泉研究所の当時の理事・東大名誉教授の綿抜先生は「水圏における水の挙動のひとつとしての温泉の把握」、地熱や地質学的なお話をされており、甘露寺先生に至っては、温泉の劣化、温泉中の微生物と衛生管理・殺菌法について、温泉浴槽水の汚染度に関するお話をされており、大変貴重な泉質・温泉水に関するお話を重鎮のお二人から生でお伺いすることができました。
では、現在、最新の令和初回、温泉療法医教育研修会のプログラムはいかがでしょうか。
温泉療法医・温泉療法専門医制度(含温泉療法指示書)/運動器疾患/気候療法/神経疾患/循環器疾患/呼吸器疾患/温泉関連法/代謝疾患/皮膚疾患/温泉地衛生学/消化器・腎疾患/入浴事故とその対策/三朝温泉病院の温泉物理療法(DVD)
というわけで、法律に関すること、法医学が取り入れられ、具体的にどうか、なにができるのか?に特化していっている模様が見受けられます。どの学会でもいえることですが、患者様からの要請や要望、社会情勢の変化によって研究発表の流行り廃りは明確にあるのです。
甘露寺泰雄先生について
前回の温泉療法医の研修の記事の時に少し触れた甘露寺泰雄(かんろじ やすお)先生は薬剤師の先生だとお伝えしました。
私が研修を受けたときの職位は中央温泉研究所の所長か研究員だったと思います。当時の理事長は研修資料にもある温泉水の成り立ちについてお話をお伺いした綿抜邦彦先生だったのです。
https://onsendr.com/2019/07/15/license/
温泉に関する資格の定義と研修受講 — 温泉療法医は温泉に関して万能ではない
実際には、現場でどんなお仕事をされていたのでしょうか。
以下の記事がわかりやすかったので、抜粋致します。
Wikipediaより詳しい、温泉水研究の最前線、中央温泉研究所の現場のお話です。
http://www.eic.or.jp/library/challenger/ca151218-1.html
第48回 公益財団法人中央温泉研究所の甘露寺泰雄専務理事に聞く、日本の温泉の魅力と可能性
中央温泉研究所は、3つの部門に分かれて業務を行っています。
1つ目は、温泉化学分析部門。温泉法に基づく温泉の利用許可にかかる分析、鉱泉分析法指針(改訂)による温泉水分析、可燃性天然ガスの分析を中心に、浴室の硫化水素濃度の測定や温泉水の腐食、スケールの付着予測に関係する分析をはじめ、一般地下水を含め温泉の化学探査にかかる水の分析を実施しています。
2つ目は、温泉地質調査部門。温泉の開発と保護にかんする調査、温泉資源探査、温泉モニタリングにかかる評価、源泉孔内の調査、ダム建設や地熱開発に伴う資源の変化など、温泉にかんする地学分野の調査を実施しています。
そして3つ目は、温泉給湯設備計画・設計および温泉地計画部門。温泉水の輸送、施設への給湯、低温泉の加熱給湯プラント、温泉利用施設の浴槽などの計画や設計など、温泉工学分野の事業を実施しています。温泉の集中管理による温泉水の施設計画・設計は、当研究所が独自に開発したものです。
温泉療法、医療には直接に関係ないものの、基礎的な安定供給、衛生管理の業務に関しては中央温泉研究所を抜きにしては語れないこと、医師になる過程で科学的に温泉を知りたいと思い、温泉療法医を志望した私には、甘露寺先生との出会いは大変心ときめく出来事でした。
信用できる書籍を多数出版されている、阿岸先生との温泉対談本で人となりや知識、考えが引退された今でも知ることができます。
温泉 とっておきの話: 甘露寺泰雄×阿岸祐幸×石川理夫 Amazon
中央温泉研究所と日本温泉協会の違いは?
目の前に焼岳、目下に平湯温泉(乗鞍新登山道)
温泉療法医には、温泉水の分析を行う中央温泉研究所の方が馴染み深いものの、歴史が古く、今も立派で広く日本で知られている温泉PRサイトも運営している日本温泉協会の方が一般にはよく目にされるのではないでしょうか。
日本温泉協会 温泉名人
https://www.spa.or.jp/
温泉の研究、温泉知識の普及、温泉資源の保護、温泉利用施設の改善及び温泉利用の適正化をはかり、国民保健の増進と観光資源の活用に寄与することを目的
とした、日本唯一の温泉会統合団体とされています。1)
中央温泉研究所は、日本で唯一の民間調査機関で、昭和24年社団法人日本温泉協会学術部の付属機関として発足し、昭和24年昭和31年5月1日に財団法人として認可され、独立しました。
中央温泉研究所
http://www.onken.or.jp/index.html
一方、日本温泉協会の歴史はさらに古く、昭和4(1929)年12月4日設立され、同6(1930)年3月17日社団法人の認可を受けたとされています。1)
いまでは全く別組織になっているものの、同根の組織であることは興味深く、また、再び、統合的な動きをして、温泉療養・湯治の復古をめざしているのが、ここ最近の環境省、国を挙げた研究者の方々の取り組みとなっています。
https://www.env.go.jp/nature/onsen/spa/spa_team.html
チーム 新・湯治 環境省
バスクリンと花王の研究所の入浴剤研究への参加
温泉水に付随する、最近の研究結果について、私が温泉療法医になる研修会の頃も講師として様々な温泉浴の種類と入浴剤の成分についての講座を担当されており、すでに多数の論文を発表されていた前田眞治先生の入浴剤や炭酸水の研究について最後に触れておきたいと思います。
この、前田先生のお話も今は昔のなくなってしまった研修プログラムなのですが。
私たちが温泉療法医になった時代は、学会の研修会で入浴剤の細かい成分についての知識を知ることができました。
現在、例えば、前回の日本温泉気候物理医学会でも入浴剤メーカーのバスクリンと花王の商品開発研究者や入浴研究に企業内で携わっている研究者の方が成果発表を盛んにされています。
以前にブログにしたHSPの発表も伊藤要子先生とバスクリン製品開発部との共同研究となっています。
https://onsendr.com/2019/05/23/hsp/
タンパク質を健康にするヒートショックプロテインHSP入浴法
さらに、日本温泉気候物理医学会から届く冊子の裏表紙にはすべてバスクリンの広告が。
「きき湯」です。
バスクリンの研究者の方が参加されている発表は87件中7件と影響力も大きいようでした。
一方、パーソナルヘルス研究員の方による発表が1件だった花王は炭酸入浴剤の効果・効能が医学的に認められており、誰でもご存知な花王「バブ」は温泉療法医の研修資料の中にも説明が含まれていました。
日本温泉気候物理医学会でも長く定評のある入浴剤です。
具体的な内容は、もう、かなり詳しく…。一般人は目にしないような内容でした。
花王社内の研究員の方々が目にするような化学式などではないとは思うのですが、入浴剤全般に対して研修時に詳しい知識を得ることができます。
ただ、一つ言えることは、医薬部外品であること、成分、効能、用法・用量は商品の箱を見ればわかるし、医薬部外品は薬事法に「人体に対する作用が緩和であること。」とされていて、入浴剤の中にはなんの効能もないものも多く存在する、いや、おそらく、バスクリンと花王の炭酸入浴剤以外は意味がないと医師である私は考えているくらいです。
おー。大変。
みなさん、入浴剤の記載事項をすべて信じないように用心しましょう。
ただし、気分転換や香りを楽しむものとしての嗜好品としては私もかなり入浴剤も愛しています。
様々な入浴剤をホテルで手に入れるたびに喜んでいくつか持ち帰り、あとで楽しみます…。
出張先は温泉地ばかりではないので。
ホテルのアメニティの入浴剤はささやかな楽しみです。
さて、優しい前田先生は入浴剤について、温泉療法医の研修テキストにはこのように記載されていらっしゃいました。
入浴剤は天然温泉の効能を期待し、家庭においてその期待を満たすべく考案されたものである。
温泉成分のうち、効能が期待され、品質が安定で、安全性が高く、安定供給できる基剤を選択、組み合わせ、さらに価値感を高めるために、色素、香料を添加し、入浴時、精神的な安堵感を与えるように開発された製剤である。
このように温泉好きの国民性のもと家庭でも簡単に温泉浴が楽しめるようにと、数えきれないほどの多様な人工入浴剤が市販されている。
これらの中には医学的にその効果が実証されているものもあるが、明らかな効果が証明されていないものもある。
効能効果の範囲も決められていて、一部の皮膚病、肩こり・腰痛や神経痛、痔、冷え性、リウマチ、疲労回復、産前産後の冷え性とされています。また、人体に強い作用を及ばさないだけでなく、誤用の際も人体に対して作用が緩和であるように作られているのです。
バスクリン「きき湯」や花王「バブ」の成分や使用感の詳細、その他市販されている入浴剤の成分と使用感ついては、またの機会にご紹介させていただきます。
▼バスクリン
https://www.bathclin.co.jp/
製品一覧:バスクリン・きき湯・日本の名湯・アーユルタイム、その他
https://www.bathclin.co.jp/products/
▼花王
製品カタログ
https://www.kao.com/jp/products/
バブ
https://www.kao.com/jp/bub/index.html
https://www.kao.co.jp/bub/?_ga=2.25132922.115002120.1563536290-1331138516.1563536290
バブシャワー
https://www.kao.com/jp/bubshower/index.html
https://www.kao.co.jp/bub/shower/?_ga=2.54481896.115002120.1563536290-1331138516.1563536290
前田眞治先生について
最後に入浴剤についての研修を担当されていた前田先生をご紹介させていただきましたが、先生はTV出演多数、ラジオでもお話されていたことや、本も出版されていらっしゃる上、現役でたくさんの研究発表もされていて、最近は炭酸水を使った健康法の研究でも定評があり、書籍もいくつか出ています。
現在、国際医療福祉大学大学院リハビリテーション学分野の教授として教鞭をとられていて、まだ、ご活躍中です。
https://www.iuhw.ac.jp/daigakuin/staff/cat/cat9/4159.html
自宅で楽しめる炭酸水の健康への活用もブログにしてみたいテーマではあり、温泉療法の分野では研究が進んでいます。
本日は、生きている温泉水を長年の経験と知識で研究している「中央温泉研究所」と甘露寺先生、入浴剤とメーカー・研究者の話についてご紹介させていただきました。
これからも、温泉療法医としての目線で、健康づくりに役立つ様々な温泉医学情報をご紹介していきたいと思います。
セルフメディケーションの時代、ぜひ、日常にお役立ていただけましたら幸いです。
本日はご訪問・ご拝読頂き、誠にありがとうございました。
今後とも、よろしくお願い致します。
1)日本温泉協会 沿革
https://www.spa.or.jp/association/activities/
2)第84回日本温泉気候物理医学会「超高齢社会における温泉医学」総会・学術集会
プログラム・抄録集
3)温泉療法医研修会テキスト 有限責任中間法人日本温泉気候物理医学会
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