お国自慢と温泉研究の今 — 昔はあった6大学温泉医学研究所①
国際性という面からみると「温泉鎖国」状態
温泉大国日本のお粗末な温泉医学研究について少し暴露致します。
タイトルにあるように、東京6大学野球ではないですが、6つの国立大学が温泉医学を研究する施設と病院を持っていました。1)
(6大学野球では東大がお粗末です。)
日本の温泉を世界に
一九七〇年代には、北海道大学、東北大学、群馬大学、岡山大学、九州大学、鹿児島大学の国立六か所に、「温泉医学を研究する施設と病院」があった。
その後、機構の改廃が行われ、現在では大学レベルで温泉気候医学を専門に研究する施設はまったくなってしまった。
時代の流れです。国にコストカットされてしまいました。
とても残念です。
豊富な温泉資源に恵まれた別府温泉では、1912年(明治45年)には陸軍病院が、1925年(大正14年)には海軍病院が開院し温泉療法の実践が始まると、1931年(昭和6年)には九州大学の温泉治療学研究所(現在の九州大学病院別府病院)が設置され、温泉治療の研究が行われてきた。
キュリー夫人の功績によって放射性物質の研究が世界的に進歩を遂げると、三朝温泉ではラジウムの効能に目を付けて岡山医科大学が1939年(昭和14年)に三朝温泉療養所(現在の岡山大学病院三朝医療センター)を設置して、温泉治療の研究を行ってきた。
歴史が古いにもかかわらず、その古さ故、民間療法・疑似科学とみなされ、一時期、発展が遅れた時期もあり、その後、温泉成分の解析などが進み、日本の温泉療法は現在の形に発展しました。
日本の温泉気候環境は、世界に類のない優れた特色を持つ。しかし国際性という面から見ると、温泉関連産業と学術研究のいずれもが閉鎖的で、いわば「温泉鎖国」の状態にある。
現在の温泉地の治療は、経済効果を狙った一泊宴会型かレジャー観光型がまだまだ主流といえよう。温泉の保健作用に着目した、新しい健康保養地の実現を強く望みたい。
10年前でこの状態です。1)(2009年)
1970年代ということで、大阪万博に影響を受けて、世界に向かって温泉をお国自慢しようとして温泉医学の研究施設を国立6大学に設立したのでしょうか。
開催地、岡山大学の研究発表・三朝温泉について
これから、数回にわたって、先週開催された学会での三朝温泉(みささ)のお話をさせていただきたいと思います。
学会発表のプログラムにある内容自体は少しなので、補足を加えると分割が必要になりました。
基本、学会発表自体は、岡山大学の長年の研究成果、三朝温泉の自慢話です。
三朝温泉がある鳥取県東伯郡三朝町は、昭和14年に設立された三朝温泉療養所を起源に設立されている、岡山大学の地球物質の研究所が今でも存在しています。
結論、今回の発表部分は以下になりますが、長年研究されていて、温泉医学の世界では世界的に有名な高濃度ラジウム・ラドン泉として注目されている温泉です。
低線量放射線:ラドン温泉の健康効果とそのリスク 2)
ラドン療法の適応症*1には活性酸素種に由来する呼吸器・疼痛性・消化器・慢性退行性*2・老人性などに関わる様々な疾患があるが、多くは経験的な処方に基づく。
このため我々は、ラドンがもたらす生体対応*3と組織・臓器吸収線量との関係をより定量的に評価したうえで、適応症に関する気候解明や新規探索などを推進してきた。
その結果、機構としては、ラドン吸入による少量酸化ストレスに伴う一連の適度な生理的刺激作用が解明されつつある。
すなわち、抗酸化・免疫調節・損傷修復の機能亢進、抗炎症・循環代謝・ホルモン分泌の促進、アポトーシス*4・HSP*5の誘導などである。
新規適応症としては、炎症性・神経障害性の疼痛、肝・腎障害や大腸炎、1型糖尿病と合併腎障害や高尿酸血症(痛風)、一過性脳虚血や炎症性浮腫などの可能性を明らかにした。
他方、ラドン(実際は子孫核種*6であるが、測定上簡便なラドンを指標)吸入は喫煙に次ぐ肺癌のリスク因子とされ、ICRPは300Bq/㎥(年間10mSvに相当)とする屋内の参考レベルを提唱している。
しかし、ラドン療法(概ね2000Bq/㎥、のべ6時間)は0.04mSv、三朝温泉浴室(概ね500Bq/㎥)での年間入浴は0.4mSv弱であり、安全とされている。
自然放射線の約半分を占めるラドンの健康増進への活用は有意義であり、関連研究の今後の一層の発展を期待したい。
適応症*1…治療効果が期待できる症状
慢性退行性*2…徐々にゆっくり身体の様々な箇所が弱っていくこと。寝たきりや老化など。
生体応答*3…体の(この場合は)放射線への反応
アポトーシス*4…細胞の自殺
HSP*5…熱ストレスで発現するタンパク質で、変性したタンパク質を治したり取り除いたりする。温泉の効果の一つにHSPの発現があると言われている。 熱ショックタンパク質 Wikipedia
ラドン子核種*6…ラドンが放射線を放出して、違う核に変わったもの
この研究発表の概要でご注目頂きたいのは、「多くは経験的な処方に基づく」の部分です。
さすがに、三朝温泉はかなり古くから医学として研究されているにもかかわらず、やはり、経験的、と公式資料にも書かざるを得ない、過去から今までの経緯を読み取ると、放射能泉に関しても、一度言われたことが後から変わることもあるというのが、今日の医学的な温泉療法に関する情報となります。
※効能は万人に対してその効果を保証するものではありません。
放射能泉については、次回以降、上記の研究発表内容の数値や単位、用語の解説なども含め、冒頭部分で引用させていただいた阿岸先生のお話に基づき、もう少し詳しくお話させていただきます。
これからも、温泉療法医としての目線で、健康づくりに役立つ様々な温泉医学情報をご紹介していきたいと思います。
セルフメディケーションの時代、ぜひ、日常にお役立ていただけましたら幸いです。
本日はご訪問・ご拝読頂き、誠にありがとうございました。
今後とも、よろしくお願い致します。
1)温泉と健康(2009)阿岸 佑幸 p.197-198
2)第84回日本温泉気候物理医学会「超高齢社会における温泉医学」総会・学術集会
プログラム・抄録集
低線量放射線:ラドン温泉の健康効果とそのリスク
Health effects of low dose radiation : health promotion by radon hot spring and its risk
山岡 聖典
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