お国自慢と温泉研究の今 — 放射能泉は「痛風の湯」?③
科学的根拠は乏しい放射能泉
今回は、妊婦の禁忌に次ぐ、一般的に言われている効果・効能の見直しに関するの学会発表についてご説明させていただきます。
すでに、最新の学会論文の中に書いてあります…。
といっても、すごくマイルドで、わからない程度、もしくは、学会に出席するレベルの人々には当然すぎてスルーする事実をお知らせします。
概要だけ全文をすでにブログにしました。あまりにも短く、専門的なのでご解説をしていると長くなっているという事情です。
お国自慢と温泉研究の今 — 昔はあった6大学温泉医学研究所①
https://onsendr.com/2019/05/26/misasa-01/
お国自慢と温泉研究の今 — 三朝温泉とキュリー夫人②
https://onsendr.com/2019/05/28/marie-curie/
放射能泉はご存知の方も多くいらっしゃると思いますが、色もにおいもない、肌触りも普通の湯とそれほど変わらないと感じられたと思います。1)
温泉のありがたみもあまり感じられないような湯でラジウム以外の放射能性物質を含む有馬温泉、強酸性の玉川温泉など、他の強烈な個性がないと普通の単純温泉のような穏やかな性質の温泉です。
時間が経つと、じんわりと効いてくる、悪いところが少し痛いような気がする、という入浴感もご経験されている方も多くいらっしゃるかと思います。
温泉分析表を見ると、意味不明の数字や単位、いわくありげな効能書きに戸惑う人が多いだろう。
温泉医学の解説書でも、「微量の放射線は人体によい影響を与えるとの説もあるが、科学的根拠は乏しい」とバッサリと切り捨てている。
中には「尿を介して尿酸を排出することから痛風の湯という」としながらも、入浴による効果なのか飲泉の効用なのかは不明なものもある。
温泉ソ〇リ〇の公式サイトや最新の温泉湯治ガイドでも目に付くのですが…。
放射能泉は「痛風の湯」というのは、とても古い知識です。
10年前以前には、「効果なし」と検証結果が出ています。
もし、信じていらした方がいらっしゃれば、認識を新たにして頂ければと思い、その流れについて詳細これから掲載させていただきます。
痛風はお湯を飲むだけでも効果があるので、放射能泉の飲泉に効果があるというのは少し違うということであったりします。
しかし、全否定ではなく、今回の学会発表でも、
新規適応症として~「高尿酸血症(痛風)」~などの可能性を明らかにした。
と表現されています。
湯に浸かり三日目の朝には病が消える
「湯に浸かり三日目の朝には病が消える」が三朝温泉の名前の由来です。
株湯はその三朝温泉発祥の地で、開湯以来、850年続く公衆浴場として今でも現役で使用されています。
神の使いである白狼を射らずに逃がした源義朝の家臣が、楠の株の下に源泉があるので、人々をいやすようにとご神託を賜った起源の場所に今も温泉が湧いています。
45-6℃のとても熱い源泉掛け流しの公衆浴場で長時間入っていられません。
初心者や少し興味のある一般の方には、飲泉か足湯がおすすめです。
マニアな方は、ぜひ、一度公衆浴場の方の入浴も試されてみてください。
放射能泉にはとかく不明瞭な点が多い1)ということで、研究者が研究し続けていることを一般のガイドや温泉地の現場で効能には書けないため、古くから言われていることや、一時期流行った、都合の良いことが記載されたままになっているのは、市場経済において当然のことと思われます。
各地の温泉郷は生き残りをかけて、生まれ育った地元にある源泉を守り続けているはずだからです。
想像に難くありません。
日本は被爆国であり、放射線の危険性は強く意識されている。しかし、地球上どこでも自然環境からの放射線が存在しているので、放射能泉に入浴することによって特別に強い放射線を浴びるわけではない。
微量の放射線でもからだにとって害になるのか、逆にむしろ生体機能を活性化する効果があるのかについては、以下に紹介するようにいろいろな議論があり、いまのところ決定的な証拠はない状況である。
ゆえに、生活がかかっている温泉郷の人々にとって、ラジウムがからだによい、という研究成果が発表されたことはとても喜ばしく、発見者のキュリー夫人の像も建立されたというわけだと思います。
それでも、今でも解明されていない部分は多いのです。
放射能泉の飲泉について
三朝薬師の湯 万翠楼
日本では、温泉と薬師如来を結び付け、神聖化する場合が多くあるようで、私も宿泊した温泉宿「三朝薬師の湯 万翠楼」でも、発掘された薬師如来と飲泉場所が隣にあり、大変、厳かな雰囲気を醸し出しています…。
インテリアや建築もモダンで、とても高級感がありましたよ。
女子の旅雑誌にも掲載されていたようです…。2)
ご高齢者のご夫婦や外国人の方が平日には多かったようです。ほぼ貸し切り感はありました。
お味としては、少し塩味がする昆布だしのような…。どこも似ています。
ただ、加水・加温・循環されているものと、源泉掛け流しの差があり、泉質やラドンの含有量も違いがありますので、1日の限度量を守るとしても、濃さによって分量が変わっている表示がされているように感じました。
公衆浴場の足湯と飲泉場が一緒になっているところが本物の源泉掛け流しの温泉なのでおすすめです。
ヨーロッパでは、かつてラドン温泉水の飲泉療法が盛んに行われた時代があったが、現在では処方されていない。
しかも、飲泉による効果や適応症とされてきたものが、その後の検証で「効果なし」と認定されたものもある。
たとえば、放射能泉はプリン体や尿酸代謝に影響を与えるということでかつて「痛風の温泉」といわれた。しかし、その後の研究で、痛風での尿酸排出増加や総窒素排出を促進するという効果は否定された。
また、放射能泉には利尿効果があるので、尿路結石やむくみによいとされた。しかし、現在ではこのような効果も証明されないということになっている。
日本の温泉効能の解説書に、放射能泉飲用による利尿効果や尿酸排出効果をうたっているものが見られるが、これらの効能については、今後の科学的な再検証が必要であろう。
上記の引用が2009年のことで、今回掲載させていただいた学会発表には「高尿酸血症(≒痛風)」とありますが、「~可能性を明らかにした。」となっています。
お国自慢と温泉研究の今 — 昔はあった6大学温泉医学研究所①
https://onsendr.com/2019/05/26/misasa-01/
ご興味があれば、もう一度ご確認ください。
ホルミシス効果の提唱者
上記の写真は、観光案内所三朝温泉ほっとプラ座の一角です。
こちらの資料には今回の学会の会長の名前もありました。
ホルミシス効果は、一時期、がんが治るという情報が広がり、とても流行っていたことがありました。
その頃、トンデモ医学本や民間療法も流行ったので、温泉療法の権威である阿岸先生も苦々しく受け止め、この一説を執筆されたのだと思います。
ご覧の通り、たしかに、回復した症例はたくさん掲載されていましたが、学会の中央部の承認までは「?」なものでした。
藁をもすがるがん患者さんの気持ちを考えると、あながち「トンデモ療法」とも言い難いエビデンスもあると思いました。
ホルミシス効果は、放射能泉の効能を考える場合に避けて通ることができないので、ここで少し補足しておきたい。
ホルミシスとは、ホルモンの語源であるギリシャ語のhormo(刺激する、促進する)に由来している。その意味は「大量使用すると有害だが、少量、あるいは適量の場合には、逆にからだによい刺激を与えてプラス効果をもたらすこと」である。
最初にこの概念を提唱したのは、アメリカ、ミズーリ大学のT・D・ラッキーだ。
彼らは、放射線による生体作用についてのそれまでの膨大な調査研究の結果を解析し、一九八二年に、「少量の放射線は免疫機能を向上し、からだの活動を活性化し、病気を治したり病気にかからないようにする。また生殖能力を増し、老化を抑制して寿命を延ばすなど、いろいろな面で生物学的にみてよい効果をもたらす作用がある」と結論づけた。
放射能泉のホルミシス効果については、今後十分な検討が必要である。
ご興味がおありの方は、現地で資料をご覧になれますので、立ち寄られてみてください。
※効能は万人に対してその効果を保証するものではありません。
随所にちりばめられている、学会発表、要約の文言にある歯の奥に物が詰まったような表現…失礼ですが、その理由をご説明させていただきました。
これからも、温泉療法医としての目線で、健康づくりに役立つ様々な温泉医学情報をご紹介していきたいと思います。
セルフメディケーションの時代、ぜひ、日常にお役立ていただけましたら幸いです。
本日はご訪問・ご拝読頂き、誠にありがとうございました。
今後とも、よろしくお願い致します。
1)温泉と健康(2009)阿岸 佑幸 p.114-115, p.123, p.118-119
2)CREA 2019 vol.350 2・3月号 p.126 左下 鳥取県 no.84 三朝温泉 三朝薬師の湯 万翠楼
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