みんな「SPAWN The Animated Series 」を見ようというはなし
はじめに
翻訳上の問題やら、出版社関係の問題やら、そもそもの文化の違いやらといった問題でアメコミというジャンルは日本ではなかなかメジャーになりえなかったが、今ではMARVELやDCといったアメコミブランドが実写映画やアニメによるメディア展開を頑張っており、日本でも空前のアメコミヒーローブームが到来することとなった。(おそらく五年以上も前のこと)
そんなアメコミ文化が日本にも浸透してきた現代だからこそ推したい作品がある。
「SPAWN The Animated Series 」だ。
本アニメは1997年HBOより展開された同名原作コミックのアニメシリーズ。原作はかつてマーベル・コミックスでスパイダーマンの作画を担当していたこともあるトッド・マクファーレンによって描かれているものであり、スポーンの作画にも当時の画風が色濃く反映されている。
かつてスポーンのフィギュアが日本で爆発的な人気を博したとか何とか聞くけど、にしては知名度が低いような気がする・・・。
厄介布教オタク的作法としては原作コミックを薦めるのが良いのかもしれないが、ワシ自身原作コミックは読んではいないし、なかなか日本で見つけることができない原作を読むのはあまりにも敷居が高すぎる。ライトに楽しめるメディアから入っていいじゃない。(人間の鑑)
一時期はAmazon Primeに登録していれば無料で視聴できた作品だが、今では有料となってしまったので宣伝が遅かったと後悔。でもHBO作品が多数公開されているU-NEXTでなら見れるので登録しているみんなは見ような!!!
…なお、実写映画版なんてものはなかったので紹介はしない。そんなのはなかったんだよ。
SPAWN…スポーン…。
あまりにも間抜けな響きである。果たしてどんなヒーローなのか…
SPAWNあらすじ
物語は敏腕CIA工作員のアル・シモンズが任務中に仲間の裏切りに遭い、命を落とすところから始まる。
彼は地獄へと送られるが、地獄の王であるマレボルギアに人を殺めてその魂を地獄に送り続ける「ヘル・スポーン」として生者の世界に復活しないかと提案される。愛する妻を残して死んでしまい、未練を残すアルは悪魔と取引を結んでしまう。
生者の世界へと戻ったアル――スポーンは、死の気配を纏った漆黒の「帷(とばり)」を纏った人ならざる者として復活してしまったことに気づく。
さらには自らが死んでから既に5年という年月が過ぎ、妻はかつての親友と再婚し、その親友との間で身籠った娘は既に歩けるようになるまで成長していることまで明らかとなった。
彼は失意に陥り、自暴自棄になって他者を拒絶しながらも、ホームレスが集う路地裏で身を潜めながら過ごす。
人と関わることを避けて静かに生きることを望むスポーンだったが、皮肉にも地獄から蘇った異形の存在である彼の元には多くの人間が引き寄せられることとなる。
怒りの感情に身を任せて多くの人を殺めるようと彼を促す者…
闇に呑まれることなく善の道を歩むようにと彼を諭す者…
人ならざる彼の正体を探ろうとする者…
脅威である彼を殺そうとする者…
邪魔者のいない平穏な日々を送ろうとスポーンが下す判断や起こす行動の代償は連鎖反応のように他所へと影響を広げ、やがてはかつての親友、妻、そして愛する娘に牙を向くのだった…。
登場人物
スポーン(アル・シモンズ)
本作の主人公であるが、清らかな心を持った正義の味方というわけではない。
他者を寄せ付けない粗暴な性格の持ち主で、目的の為なら殺人も厭わない自己中心的な人間。しかし、愛する妻と娘、信頼を置く親友のことは一番に気にかけており、異形と化した自分を受け入れてくれる路地裏のホームレス達には心を開いている。
数々の悪と対峙する上で、地獄に仕える異形として人を殺めるか、理性を残した元人間として命を奪わないかの選択を常に迫られる。
ワンダ・ブレイク
アル・シモンズのかつての妻。のちに再婚したテリーとの間で産まれたサイアンという娘がいる。アルの死後、彼の親友であるテリーと再婚する。正義感の強い記者だが、それ故社会の闇に踏み込みすぎてしまい、娘と共に危機に晒されてしまう。
テリー・フィッツジェラルド
アル・シモンズの親友で、亡くなったアルの代わりにワンダの面倒を見ると固く誓い、彼女と結婚する。CIA職員として仕える真面目で誠実な人間だが、上司であるジェイソン・ウィンによる汚職の証拠を目にしてしまい、やがて命を狙われることとなってしまう。
ジェイソン・ウィン
表向きはCIAの長官、裏では犯罪組織や警察を金で買収して悪事を働かせ、果てはアメリカの大統領までも操る危険な存在。アル・シモンズの暗殺を企てた張本人。「力」に対する異様なまでの執着を抱く。
クラウン
ピエロの格好をした不潔な肥満体系の中年男性。その正体は人の皮をかぶったマレボルギアに仕える悪魔の一人「バイオレーター」
スポーンの前にたびたび現れては彼の感情を刺激し、怒りに任せて地獄へ多くの魂を送るよう仕向ける。
カリオストロ
ホームレス達に交じって路地裏で生きる老人。スポーンに対し「帷」に呑まれることなく善の道を歩むよう指南する、ヘル・スポーンに関する知識を多く所有する謎多き人物。
サム・バーク
トゥイッチ・ウィリアムズ
スポーンが過ごす路地裏で発生する様々な怪事件の真相を判明すべく、共に捜査に当たるガリデブ警官コンビ。性格は正反対だが、互いを良く信頼している。
事件を追っていく過程でスポーンの存在、そして警察上層部の汚職を知ることとなる。
オススメポイント① 硬派で大人向けなストーリー
アメコミのアニメ化と言って侮ること勿れ。エログロ要素が当然のように描かれており、お子様お断りなエッジーな内容となっており、自身に仕向けられる脅威や、家族に訪れる危機に対してスポーンが重火器や闇の能力を駆使して暴力的に問題を解決する爽快感の高いシーンなどがふんだんに描かれる。
なお、物語が進むにつれて、
汚職に塗れた政府や警察といった上層組織とそれらを裏で操る圧倒的な存在の恐ろしさ。また、力なき者達がそれらに歯向かうことへの代償
といったテーマが主に描かれるようになるが、その際にクローズアップされるのは力なき者達側の視点なので、中盤以降はサブキャラクター達にスポットライトが当たる場面が多い。
無益な殺生を行ってきた過去を省みた上でスポーンが「ヘル・スポーン」ではなく「アル・シモンズ」として如何に「帷」の力を駆使すべきか。といった内面の成長についても一応描かれるのでスポーンの話自体に見所がないわけではないが…
「スポーンが身体改造を施したサイボーグや、天界よりヘル・スポーン抹殺の指令を受けた吸血鬼と戦う様子」
…よりも
「路地裏の怪事件を追う中で警察組織内の汚職に気づいた警官が、汚職を行っている張本人である所長に命を狙われながらも真相解明に迫る様子」
のほうが面白く感じてしまい、かっちょいいヴィジュアルのダークヒーロー「スポーン」より、しがない一般人達による活躍のほうが輝いてしまう部分もある。
ただ、正義を忘れた超能力を持つ異形の存在が己のアイデンティティと向き合い苦悩する傍らで、なけなしの正義感を掲げたちっぽけな人間達が巨悪と戦う姿が描かれるのもまた、乙ではないだろうか。
…少なくとも俺はそういうの好き(?)
オススメポイント② 圧倒的劇画風作画
絵柄がバタ臭く、日本アニメを見慣れた層からしたら若干抵抗を感じるかもしれないが、HBOが金を叩いて日韓のアニメスタジオを酷使して作らせたアニメなので作画はある程度力が入っている。
物語の都合上、暗闇が描写されることが多い本作であるが、夜の描写においては陰影がはっきりしたスタイルで描かれており、逆に日中の描写においては明るい色をふんだんに使用している。この日夜の違いでアートスタイルに大きな差があるのが特徴的と言える。
そんな中で、スポーンの全身が映るシーンはどこで切り取ってもメタルバンドのアルバムアートとして通用しそうな幽玄さがある。
…なお序盤以降、スポーンは黒と赤と緑の三色だけで表現されることが多くなるが、手抜き作画ではないはず。多分気のせい。
オススメポイント③ 迫真の演技(主に主役)
ストーリーのシリアスさを表現するうえで、一役買っているのはやはり声をあてる人たちの演技で、全員が演技に力を入れている。
ただ、なんといっても主役、スポーンの声が素敵すぎる。
声優はCoD: MW2のフォーリー軍曹やといったような声の響きがとても素敵なキャラを演じるキース・デイヴィッド。
普段は湧き上がるような怒りを押し殺すような声で喋り、感情を露わにするシーンでは獣のような荒々しい声を出す起伏の激しい演技が印象的。この作品が持つ魅力のうち5割を占めていると言っても過言ではないと思う。
対する日本語吹替の声優はなんとあの大塚明夫である。こちらも良キャスティングで、負けじと素敵な声でスポーンを演じているが、個人的には英語音声をオススメしたい。
余談だが、ソウルキャリバー2という格闘ゲームでもスポーンがゲスト出演しており、こちらも大塚明夫が声を当てている。
さいごに
最高の出来を誇る本アニメであるが、打ち切りの為に3シーズンで終了してしまい、日本での展開に至ってはシーズン2止まりと、当時はあまり評価が高くなかったのかなあ…という結果で終わっている。非常にもったいない。
ただ、スポーンというヒーロー自体に多くのファンがいるのは確かであり、最近では人気格闘ゲームのモータル・コンバット11にてゲスト出演で登場し、操作可能キャラクターとしてDLCが発売されたり、ジェイミー・フォックス主演で新たな実写ドラマシリーズが計画されているという話も上がっている。
アメコミのダークヒーローといえば「バットマン」一択の現状から「スポーン」という名前も上がるような未来になることを望む。