すずめの戸締まり見た! 22/11/18

すずめの戸締まり見ました! 結論から言うとよかったです。
個人的な好みとしては「天気の子」のセカイ系モロ出しのほうがのめり込める感じではあるんですが(ゼロ年代オタク引きずりまくりなので)、すずめに関しては東北出身者として居住まいを正すというか、頭が下がると言うか、ようこれをエンタメとして昇華したなという気持ちです。

天気の子は「俺だけが好きであれ! 周りから突っ込まれれば突っ込まれるほど好きという気持ちが燃える」という感じで、すずめは「もっともっと世間で評価されろ!」って感じですかね。

以下箇条書き。ちゃんとした記事にまとめる気力がねえ……。

・空の色の複雑さはefの頃から変わらない新海節で、帰ってきたなという感じがして良い。

・最初にミミズが出てきたとき、「え!? アンリマユ!? これって…… fate/stay night!?」と思ってしまった。この思い込みは後々まで尾を引くこととなる(本当に悪いオタクだよ、既存の作品に当てはめなきゃまともに鑑賞もできんのか?)。

・「死ぬのなんて怖くない」って即答するすずめちゃん見て、「あ、ぶっ壊れてるな、この子衛宮士郎なのか」と思ってしまった。初手から快活で可愛い子だな~とは思ったんですが、この死生観でグッと引き込まれましたね。それを咎めるでもなく同じように引き込まれる草太さんは草太さんでちょっとヤベえなとは思った。

・すずめちゃんの死生観を目の当たりにして笑うの、草太さんとおじいさん共通のところなんですよね。つまり「閉じ師」って言うのは世界のために自分を壊して透明になっていく作業を伝統的にやってきた一族で、その歴史の重みと訓練を経ずに自分の体験でぶっ壊れてるすずめちゃんを見るとシンパシーを感じるってことだと思うんですけど。

・結局のところおじいさんも口では閉じ師の本懐を語っていても内心では大事な孫を失ったことが辛くて辛くて仕方がないし(松本白鸚の芝居すげえ)、草太さんもすずめちゃんと会って本当には壊れていない自分に気づく、最後にすずめちゃんが自分で自分をちゃんと癒やしてお家に帰る、っていう話だと思うんですね。

・天気の子は世界って壊れてるけどそれに引きずられて壊れなくてもいいじゃん、壊れた世界だからこそ大事にしあって壊れず生きてこうって話で、すずめは最初から壊れてた人たちが世界を治して自分も治して家に帰るって話で…… 逆なんだけと近いみたいなそんな印象を受けましたね。

・草太さんの魅力を重層的に描く手腕にはワザマエを感じましたね……。完璧な美青年かと思いきや少し抜けてたり、大人かと思いきや全然学生だったり、細かいギャップがどんどん出てきて留まるところを知らない。

・芹沢くんとかいうすごいキャラが出てきて全部いい方向に持っていってくれるのすごかった。最初に登場したとき「俺は怒ってるぜ!」って言ってたの、本当に限界までブチ切れてたのが後々の行動でわかるの面白かった。多分人生で一番キレてたんじゃないですかね。

・ロードムービー風に現地の扉を閉じてく所、1クールぐらい使ってもよさそうなくらいだった。新幹線で近畿東海を全部すっ飛ばしたのがもったいない。このアニメだけ全然知らんオタク(存在し得ない存在)に「これ1クールアニメの再編集劇場版だよ」っ言ったら信じるんじゃないかな。

・行く所行く所でいい人が出てきて商売も繁盛していくの、「神話じゃん!」って思った。まあ言ったらご都合展開なんだけど、腕のある作家はご都合展開をそうあるべき運命と感じさせることができるんだろうなと思う。バーフバリのラージャマウリ監督とかもそうじゃん。RRRまだ行ってません、絶対行かないといけない。

・すずめの死生観の中におばさんへの後ろめたさが入ってて、おばさんの必死さの中に自分の人生への後悔が入ってるっていうところから逃げずに向き合った上で短くまとめたのすごかったですね。でもここも1話25分かけていいところですよ。まとまったのは芹沢くんのおおらかさのおかげだと思います。

・天気の子でも思ったけど、新海監督の大人と子供感というか、もっと俯瞰した目線というべきか、「子供に分別をつけろというのは単に大人と世界(基本的には社会)の都合」っていう感覚と「大人は弱くて後悔ばかりで、だからこそ今に向き合えてる」みたいな感覚が強いのかなと勝手に思っていて、そういう優しさが肌に合うから全作品一定以上好きになれるのかなという感じがする。逆に合わない人は新海監督の子供への目線が合わないのかなーという印象を受けてますね。子供は賢く分別をつけろ、というのもまあ、我々は大人ですからそう思ってても悪いわけじゃないですが。私自身は子供に自制や分別を求めるのは嫌だ、というか、そういうことを言わなきゃいけない社会にうんざりするという気持ちが強いような気がしてます。

・東北出身者(一応被災者に入るのか?沿岸住みじゃないけど)としてすげーなと思ったのは、震災の描写として陸に上がった船のカットが印象的に使われてたところですね。私も震災後沿岸の街を見て回ったり一応したんですが、壊れた街よりも印象に残ったのは打ち上げられたりコンクリの港にガッツリめり込んでるタンカー船だったんですよ。人知を超えるパワーの存在が視覚化されたような畏怖感というか、自然が本気を出したら人間は絶対に勝てないんだとはっきりわからされた瞬間だったので。新海監督もそういう感じ方をしたのかな、と勝手に思いました。

・あとリアルだなと感じたのが、津波でぶっ壊れた街に自然が侵食する感じってたしかに美しさがあるんですよね。芹沢くんが「きれいだな」って言う感覚も、思い出があるすずめちゃんが「これがきれいってドユコト?」って言う感覚もどっちも正しいんですよ。そこの差異は単に元の姿への思い入れだけ。そういう「美しい絵は美しい」っていうどうしようもなくソリッドな感覚はさすがこういう映像づくりをする人だなという。

・津波被災地に行って印象に残ることってもう1点あって(あくまで私の中ではですよ)、波がどこまで来たかってパッキリわかるようになってるんですよ。ある一定のライン以降は水が来てないから見た目上被害がなくて、そこから海までは全部ぶっ壊れてる。その境界線の異常な厳密さに「あ、海が溢れて広がったんだ」という実感があるし、「こんな単純な届く、届かないで全部決まるんだ」みたいな気になるんですよね。

・作中の「後ろ戸」の概念に触れたとき上記をすぐ思い出したんですよね。境界の厳密性というか、災厄と日常の間に薄紙一枚しかない感じというか。だから、地震の話がメインのように見えるけど、扉が出ている限りずっと津波の話でもあって、つまり震災の話なんだなと勝手に合点が行ったというか。

・だから、震災がトラウマの人でこれが見れない人は多いだろうなと思うしネタバレ上等の警告やむなしって感じですね。あえて原理的な部分はファンタジーにしてプロットは伝奇にしても、震災の本質を克明に描けすぎてる。これは覚悟の上でやってるんだろうなと思います。

・そんな覚悟がある人でも、やっぱ映画的に猫叩きつけはアカンのか!?と思って笑ってしまったことも書いときます。人が死ぬより猫が暴力振るわれる方がキツイって感覚、いまや全然主流ですからね。すごいと思うわ。まあ感覚的にはわからなくもないんだけど。

・書きたいことだいたい書いちゃったな……。まあ無理にまとめに入らなくてもいいか。まとまってないし。そんな感じです。

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